うなれ!お母さんの呪文!!
「ソウちゃん、『石の術』よ!」
電車の中でお母さんがそう言うと、ソウスケは、騒ぐのを止め、忍者のように両手で印を結び、両目をギュッとつむり、石になりきった。ソウスケが幼稚園くらいのときだ。
この呪文を使い出した頃、それなりの効果があった。だけど、だんだん、呪文を唱えてからソウスケが静かにしている時間は短くなっていった。お父さんが、
「もう術がとけたのか。修行が足らんぞ。さあ、もう1回だ」
って促しても通用しない。幼児を操る呪文には賞味期限があるのだ。
「体操クラブに入りたいんでしょ。カバンくらい自分で持てなくてどうするの!」
幼稚園に迎えに来てくれたお母さんがそう言うと、ケイスケは、ハッとしたような顔をして、お母さんに渡そうとしていたカバンを自分の肩に掛けた。体操クラブは、幼稚園から委託されて体育の授業をしているスポーツジムが、授業とは別に放課後に遊戯室や園庭を使って子供達に運動を指導するクラブだ。多くの園児達が入っており、ケイスケもこれに入りたがった。
体操クラブをネタにした呪文も、体操クラブに入る前後の少しの間、ケイスケに荷物を持たせたり、ケイスケに自分で歩かせたりすることに有効だった。しかし、これにも賞味期限があった。
お母さんが新しい呪文を考え、子供達はその呪文に耐性をつける。この戦いは、今も続いている。




