幼児の美学
まだろくにしゃべれないうちから、ケイスケ・ソウスケは、カメラが向けられるとピースをするようになった。もちろん、お父さん・お母さんは、そんなポーズを教えたことはないし、お母さんがケイスケ・ソウスケと写真に写るときにピースをしたことも(おそらく)ない。まだ、しゃべれないから、どこで習ったのか、とか、どういうつもりでピースをしているのか、とか、本人達から聞くこともできない。お父さんは、不思議に思うことしかできなかった。
5歳くらいの頃、ケイスケ・ソウスケは、テーマパークで忍者のコスプレをした。お父さんが、2人にカメラを向けると、指示されたわけでもないのに、即座に忍者っぽいポーズをとった。あるときは忍術を使うときのように、左手の人差し指を右手で握りつつ右手の人差し指を立てて印を結ぶ。あるときは両腕を適度に開きつつ巨大な手のモニュメントや古い板壁に背を向けて貼り付く。
お父さんは、参観日などで2人と他の子達を見て、2人は、おとなしい性質のようだ、って思ってたから、カメラを向けられて2人がサッと(忍者の如き素早さで!)忍者のポーズをとることに驚いた。2人は、「忍者で、かっこいい僕」に酔いしれていたのかもしれない。
ちなみに、忍者装束は、いくつかの色が用意されており、選ぶことができた。2人が選んだ色は黄色だった。忍んでなくない?
幼稚園の夏祭りっぽいイベントで、浴衣を着た子供達を並ばせて写真を撮ろうとしたとき、ソウスケは、1人、カメラに背を向けて写ろうとした。そのとき、大人たちは、背中で帯に差してある手作りうちわを見せたいのかなって思っていた。
同じ頃、お父さんが、有名な高層ビルを背景に3人の写真を撮ろうとしたときだ。お母さん・ケイスケはカメラを見ているのに、ソウスケは、後ろを向いて、高層ビルを見上げる、少し芝居がかったポーズをとった。
別の日に、お父さんが、湖を背景に3人の写真を撮ろうとしたとき、やっぱり、ソウスケだけ、後ろを向いて、少し芝居がかったポーズをとった。
だから、後から、お父さんは、こういったソウスケの写り方は、
「みんなで、そろってカメラを見て写るなんて、カッコ悪い」
っていうようなソウスケなりの美学によるものだったのかもしれないって思うようになった。
幼稚園の年中から小学校の低学年までの頃、ケイスケは、写真を撮るとき、よく、変顔をした。あるときは舌を思いっきり出し、あるときは白目をむく。おとなしい子のはずなのになぜ、って、お父さんは不思議がった。しかし、お父さんは、最近、これも、
「写真は、なにかしら興味を引くものが写っていなければならない」
っていうようなケイスケなりの美学によるものだったのかもしれないって思うようになった。
ちなみに、小学校高学年になった現在の2人は、1人だけ後ろを向くこともなければ、自分がカッコいいって思うポーズをとることもなければ、変顔もしない。思春期は近い。思春期が近いといえば、ケイスケの要望で、お母さんがケイスケ・ソウスケに「ちゃん」付けをすることも無くなった。




