11 過去。
3人共に、マルタンさんとは何も無いそうで。
お茶会の終わりに、アーチュウ様のお屋敷でマルタンさんとマリアンヌさんと共に反省会をと、その筈だったのですが。
「ですが処女でらっしゃるなら」
《けどさぁ、暗示で非処女だと思ってて、あ、メナート様、コッチコッチ》
『あの、コレは一体』
《まぁまぁ、座って座って。でね、思ったんだけど、暗示に掛かってただけで実は処女でした。非処女は勘違いでした、って言われて信じられると思う?ちょっとは生々しい事もしててさ、それはマジなんだけど、どう?》
『どうして、その様な』
「まぁ、色々と有りまして」
《そっか、知らないのか》
《と言うか情報しか知らない状態と言って良いだろうな》
私とマリアンヌさん、マルタンさんにアーチュウ様、そこへメナート様が加わり。
《で、どう思います?思い込み非処女、処女について》
庶民にも重要視されている事ですし、しかもマリアンヌさんは少し特殊な事例でらっしゃいますから。
知りたいですよね、男性にどう思われるか。
『要は、次に本当にお相手となる方が、どう思うか。処女が良いと思う方の何割かは比べられたく無いから、だそうですので、そこに過去のお相手との経験が滲まなければ、問題は無いかと』
《となると、してみて、か》
『多分ですが、はい』
《メナート、お前、経験の記憶まで》
『そうした事をする前ですので、はい』
《えー、凄い、何か新鮮、非童貞なのに童貞って、どうなるんだろ?》
「あー、それで、成程っすね」
「成程、とは?」
「自称童貞なのにクソ上手かったら超疑われるじゃないっすか、それと同じって事じゃないっすか?」
《つかメナート様が非童貞なのが驚きなんだけど、逆に納得》
《それは、どうしてなんだろうか》
《何か安心感が有るって言うか、落ち着く、みたいな》
「そうですか?私はあまり、程よい緊張感が有るのですが」
「それ、そうメナート様が接してたからじゃないっすかね?アーチュウ様に過保護だって聞いてますし」
『私はアーチュウに過保護だったのかな?』
《いや、俺は感じた事は無いが》
「アーチュウ様に来る女は軒並みメナート様の網に引っ掛かるから、それで逆に何も無さ過ぎたんじゃないかって」
《あー、過保護だわ確かに》
『僕はそんな事を?』
《露払いをしていたとは聞いていたが、すまない》
『いや、それは前の、ややこしいから今は亡きメナートと言う事にして貰えますかね?』
「生きてらっしゃいますけど、確かに、同じメナート様になるかどうかは別でらっしゃいますしね」
《それ、変わりたいとか変わりたく無いって有ったのかな、亡きメナート様》
『今の私は、前と同じは少し嫌だと思っていますが。どうでしょうね、私はもう違うメナートですから』
《どうすれば、俺は助けになれる》
『それが特に無いんですが、ありがとうアーチュウ、君が変らないで居てくれて本当に助かったよ』
《アニエス、そこ聞きたく無い?昔のベルナルド様の事》
「そこは、変わってらっしゃらないなら聞きたいなと思いますが、本当に変わらないんですか?」
『全く、ただ違う事は人に嫉妬する事、初めて見て驚いたよ』
「本当、アニエス様の事になると人が変わるからなぁ」
《あ、手紙の件も、知らないのかぁ》
『手紙?』
《アニエスに書いてた手紙、出せなくてそのままらしくって、愛が詰まってるから見せた方が良いんじゃないかって話だったんですよ》
《余計な事を》
「今は俺じゃないっすよね?」
「そんなに嫌でらっしゃるなら」
《いや、嫌では無いんだ、ただ、今思い返すと》
「量が凄いっすもんね、こん、いふぁいいふぁい」
《こんなに直ぐ御す人だったんですか?》
『だね、強かったからこそ力で御せる事は御してたけど、凄い怒られてからは落ち着いてたんだけどね?』
「何か俺にだけ当たりが強いんすよぉ」
《お前は直ぐに暴くから困るんだ》
「お付き合いが私より長いとは言えど、良く見抜けますねマルタンさん、結構な鉄仮面さんですよ?」
《婚約者が言うんだから相当だと思うけど、それも子供の頃から?》
『あまり顔に出しませんし、出ない方でしたからね、私も何を考えてるか全然分かりませんでしたから』
メナート様でも分からなかったとなると、だからこそメナート様は居心地が悪かったのかも知れませんね。
私も、敵味方の区別が付かない状態でアーチュウ様と対面したら、きっと。
「で、手紙なんすけ」
《出来るなら説明させて欲しい、必死で、割愛したい部分も有る筈なんだ》
「構いませんが、もしかしたら私が思い出し怒りをしてしまうかも知れませんよ?」
《思い出し怒り、斬新、するんだアニエスでもそんな事》
「そりゃしますよ、何の説明も無いままで、何でこんな事にって。逆に言えばそうならざるをえなかったのだとも思っていましたけど、今同じ事をされたら怒りに行きます、どうしてって」
《何か、怒るアニエスが想像出来無いんだけど》
「そっすね、確かに」
《怒ってくれて構わない》
「それ寧ろ見たいか」
「構いませんけど、それで冷めたら本当に怒りますからね?本当に婚約破棄して年下に行きますから」
《おぉ、片鱗が垣間見えた気がする、成程、そんな感じで怒るのね》
「もー、怒るのって疲れるんですからね?」
《はいはい、何か有ったらウチに来てヤケ食いすれば良いじゃん、何でも出してあげるから》
「キッシュと、フライドポテトと、スープで」
《はいはい、何も無くても用意しといてあげるから来な?》
「俺も行くんでバカ食いしましょうね」
《お前はダメだ、メナートが行け》
『私で良いんですか?取ってしまうかも知れませんよ』
《いや、お前は分別が有る》
「それ俺が分別無いって事っすかね?」
《あのクラルティが良い子かもって思ってたからなぁ、私もメナート様の方が良いな?》
「何で俺、信用度が低いんだろ?」
《大して上げる様な事が無かったからじゃない?》
「あぁ、確かに」
『そうですね、確かに』
「ん?俺ってメナート様にまで嫌われてましたっけ?」
『どうなんだろう、嫌いそうも無いけれど』
《俺は嫌っていないしメナートとお前は普通に接していたぞ》
「じゃあ何で確かにって」
『あぁ、すみません、コチラの事で。私、シャルロット嬢を好きになってしまったんです』
《メナート、同情なら俺は許さないぞ》
『いえ、その前からです、私が落ち込んだりしていたのも、全てシャルロット嬢に関わる事ですから』
《ぅわぁ、何か素敵な事っぽいのにもしかしてややこしい感じ?》
「いやー、俺は詳しく知らないんすけど」
『以前の私は誤解から少し嫌われていたので、そこですね』
《でも誤解は解けてるんでしょ?》
『はい、ですけれど最初の強い印象を覆すのは、とても根気が居る事だそうですし。しかも今の私はアナタ達より幼い、足りない部分は大いに有るとは思いますが、出来るだけ沿おうと思います』
《そこだ、マルタンに足りないの》
「急に俺?」
《誰かに沿って生きそうも無い、何だかんだ自分を貫いて、そこに付き添ってくれそうな人が合う気がするんだよね》
「あぁ、分かります、アーチュウ様と渡り合える程の我の強さですし」
「俺、そこまで我が強いとは」
《自覚が無いのか、お前は我が強いぞ》
『アーチュウと対等は難しいですからね、大概の人は怯んでしまうでしょうし』
「いや、アーチュウ様も人間なんだなって、それこそ手紙の事で思ったんすよ。最初は誂ってやろうって思ってた程度なんすけど、凄い悲しそうで、あんな鬼みたいな人でも悲しむ事が有るのか。そっか、同じなんだなって。だから俺としては逆に読んで欲しいんすよね、アニエス様なら分かってくれるだろうって」
「そんなに悲しかったですか?」
《不安で堪らなかった、理解してくれるだろうと思っていても、それは俺の思い込みかも知れない。傷付かないで欲しい、けれど不安に思って欲しいとも思っていた、何も思われない事が堪らなく嫌だった》
「近い」
《すまない、つい》
「反動ヤバいっすね」
《だね、もう帰ろうか、邪魔すると本当にアニエスが大変な事になりそうだし。あ、私は何も知らないからこそ応援してますよ、シャルロット様って良い人だし、私にはメナート様も良い人に見えるから》
『ありがとうございます、そうなれる様に努力しますね』
何か吹っ切れたんですねメナート様。
ただ、それでお2人が幸せになれると良いんですが。
《どう言う事だ、メナート》
俺の知るメナートは、シャルロット嬢には無関心だった。
最近になりシャルロット嬢にちょっかいを出していたのは知っていたが、やっと蟠りが解け、旧友との不慣れな交流なのだろうと。
『既にシリル様にもご相談していた事なんです、将来について考えろと言われても、私はシャルロット嬢の傍に居られる将来以外は考えられない。コレは宣誓で誓いです、未だどうすれば良いのか分からないまま、だからこそ指導も受けられたらと考えています』
《一体、何が》
『気付いたのは腹筋を見せられた後です、そして婚約者との騒動で、私は機会に恵まれたとすら思いました。そしてシリル様の計略なのでは、とも』
《だから同行していたのか》
『はい、皆さんがシリル様を信用していても、私にはまだ赤の他人ですから。ですが非常に苛立ってらっしゃり、本当に情も汲んで下さる方なのだと理解し、私への処遇についてもやっと納得が出来たんです』
《確かに、お前は過保護だな》
『ですがもう違いますよ、アナタにはアニエス嬢が居ますし、ココは意外と良い場所ですから』
《すまない、やはり居心地が悪かったんだな》
『いえ、コレは誰が悪いと言えば、親。その親を育てた祖父母、王侯貴族は確かに子供を守ってくれていました、そんな中で私は少し恵まれ過ぎていたんです。栄養が少ない土地で育ちましたから、栄養過多で根腐れを起こしかけていただけ、アナタもベルナルド家にも非は無いんです』
《シャルロット嬢の何が良いんだ》
『アナタに似て清廉潔白で、信念が有り真面目で、優しく、綺麗ですから』
《難しい相手に挑みたいだけじゃないのか》
『何処まで知っているんですか、私の仕事』
《知らないが、女の扱いが上手い事は分かっていた。そうした能力をどう得たのかは、今日のカサノヴァ家で理解した》
『らしいんですが、私は何も覚えていないので』
《あぁ、そうだな》
『私は、汚らわしいですか?』
《俺は人を好きになるのに時間が掛かり、拘りも多い。お前は人の良い面を直ぐに見出し、理解出来る、良い悪いでは無いだろう》
『本当に、身内に甘いですね』
《信じているからな、どんな育ちでも曲がるヤツは曲がる、だがお前は真面目で誠実だった。俺の知るメナートは、そう言う人間だ》
『改めて信じられてしまうと、凄く気恥ずかしいですね』
《だがシャルロット嬢の事は別だ、傷付ける可能性が有るなら諦めろ、俺は絶対に許さない》
『アーチュウは、アニエス嬢の事は絶対に飽きない、そう言い切れる根拠は何ですか?』
《確信が有る、不安は全く無い、そもそも飽きるどうこうすら思った事が無い》
『それは私もなんですが、以前の私は少し薄情だったそうなので、万が一が有れば処分して頂く事にしました』
《処分だと》
『はい、事故で亡くなる様に配慮して頂く事にしました』
《どうして、前から、相談をしてくれないんだ》
『多分、恥ずかしかったんです、そして困らせたく無かった。彼女の元婚約者のように、男として恥ずかしかったんだと思います、誰にも弱味を見せてはいけないと強く言われていましたから』
《俺に、何が出来たんだろうか》
『居てくれただけで本当に良かったんだと思います、既に栄養過多でしたから、何かされたらもっと捻じれて本当に腐り落ちていたかも知れませんから。ありがとうございます、コレからも味方で居て下さいね』
《事情による》
『そう答えて下さるから、私は甘えていたんでしょうね』
《甘えられた記憶は全く無いが》
『甘え方が変わってるらしいので』
《成程な、だがシャルロット嬢に受け止めきれるんだろうか》
『ダメなら死ぬだけです、もうこうなっては私は生きる事も放置し、家にまで迷惑を掛けるかも知れませんから』
《だから、敢えて避けていたのか》
『真相は分かりませんが、どうやらその様です』
少し前の俺なら、何を寝ぼけた事をと。
けれど、俺もアニエスと離れる事になるなら。
《俺も、死を賜りたいものだな》
『育ちが違いますし、アナタの場合は道は多い筈、きっとそうなる事は無いですよ』
《だと良いんだが》
『私の事で無闇に不安にならないで下さい、私は少し他と特技が違うだけ、その事が少し問題なだけですから』
《お前を生かしたい》
『アニエス嬢を失っても、そう言えますか』
《いや、子が居ない限りは無理だろうな》
『私も、そう言う事です』
どうやら、本当にメナートはシャルロット嬢を愛してしまったらしい。
なら俺が出来る事は、以前と変わらず、見守る事だけ。




