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25 計画。

『はぁ、すまないねアニエス嬢、半分は大人達の計画なんだ』

《あ、年上の無能な王侯貴族の事よ、彼女にも機会をって五月蠅いのも居たの》


 やっと、僕はアニエス令嬢と接する事が出来る。

 シリル様から既に事情を聞いていたからこそ、代わりに接触を禁じられてしまっていた、全ては計画の完全遂行の為。


 アニエス令嬢の気持ちをハッキリさせる為にも、周囲に受け入れさせる為にも、そしてクラルティ嬢の為にも計画された事。

 クラルティ嬢が勘違いをしなければ、彼女は本当に貴族の養子にもなれていたんですが。


 残念です、単に振る舞いだけが貴族の庶民なんですから。


「絶妙な情報量を提示されてしまいますと逆に、余計気になるのですが」

《あの子、クラルティを王都に送る前後から、計画が動いていたそうなの》

『頼むよ、メナート』

『簡潔に説明させて頂きますと、貴族の1人が彼女を見初め、罠に嵌めようとしました』


「ぅあ、はい」

『はい、食堂の周囲で貴族令嬢が働いている、との噂を流し学園へ入る様に促し。学園に入った際には子供も使い持ち上げさせ、落とし。誰かの手籠めにさせた後、使用人として引き入れ、妾とする』


「凄い、その才能をお仕事にお使い頂けば宜しかったのに」

『本当だよ、全く』

『向こうの計画を知ったのは噂の元を辿った時でしたので、そこから計画を乗っ取りコチラの都合の良い様に改変し、こうなりました』


「元から似た計画が既に有ったんですね?」

『はい、もう少し成長して頂いてから学園にと、あのままでは今回の様にオモチャにされるか利用されるだけでしたので』


《そこも、一応はシャルロットから説明させたのだけれど、あんまりにも学園に入りたがっていたらしくて。だから、少し試させて貰ったの》

『その間に新しい情報が入ったんだけれどね、アレの育ての親が随分と意固地で時間が掛かって。あんなに思い上がる様に育てていたのは、少し前に分かった事なんだ。だから良き庶民の為にも、今回は晒し者にする事にしたんだよ』


《王族の側近を誘惑する行為は厳罰、内乱誘発罪に淫行罪、不敬罪。本当は愚か者罪も加えたいのだけれど、無いモノは加えられないのよね》

『そして意図は別にしましても、もし成功していれば国に大きな影響を及ぼします、そして親の罪も併せ本来なら死刑。ですが成人では無い事、国を乱す意図は無かった事、明らかに教育が不十分であった事等を鑑み。再教育後、劇団に強制加入となるそうです』


「あ、良かった、普通に生きられるんですね」

《けれどアナタが関わる事になるのよ》


「私が?」

《だって、既にガーランド令息に小物の貸し出しを行っているでしょう?》


「それは、家の者が」

『ガーランド』

『はい。ジュブワ家からお貸し頂いたのは確かですが、元はアニエス令嬢の好意と発案が有ってこそ、アナタが関わっていなければ出来無かった事です。僕に小道具を借りる、なんて考えは有りませんでした、少額な予算ながらも舞台が貧相に見えないのはアニエス令嬢のお加減なんです』


「でも、貸すだけ、ですし」

『だけ、でも十分なんですよ、美術大工だけでも裁縫だけでも、舞台には欠かせないモノなんですから』

《それで、劇団の主宰はガーランド、アナタが副主宰ね》


「それは流石に名ばかり過ぎでは」

『裏方は既に納得していますし、名実共に協力頂いていますから、宜しくお願いします』


 彼女となら仕事が出来る。

 しかも、とても良い仕事が。




「えー、コレをお断りする手段は」


 俺が贈った花束を抱え、困惑するアニエス。

 可愛い。


《協力してくれなければ劇は見せてあげられないわ?》

『そうだね、立ち入り禁止にしよう』


「えー、狡い、それはあまりに圧政が過ぎませんか?」

《ふふふ、それでも断るなら王命を下して頂くわ、ね?》

『そうだね』


「こんな事に強権を発動しますか」

《意外と使う場が無いのよね》

『そうそう』


「まさか、それでいずれ私に爵位を、とか考えてらっしゃいませんよね?」

《あら、その論拠は?》


「経済を回せる、教育が施せる、私がアーチュウ様と結婚し易くなる。一石三鳥」

『うん、そんな感じだね』


「はぁ」


 聞いた事も無い、大きな溜息を。

 確かに再び会う事を制限されてしまったが、俺の気持ちは揺らがない。


 だが、アニエスは。


《そんなに俺と結婚したくないのか?》




 私なら、喜んで受け入れるのに。


「こんな高位の方々に取り立てて貰えるのは大変有り難いんですが、ちょっと、いえかなり気が引けます」


 どうして断ろうとするの。

 どうして。


《私達を信頼出来無いのかしら?》

「持ち上げて落とす様な事は無いでしょうけれど、それこそ試されているかも知れないとなれば警戒は当然でして、コレ以上何を試すんだとも思いますが。正直、お受けしても力不足に陥りご迷惑をお掛けする事が多いのでは、と」


《単なる物知らずとは違って、賢く真に謙虚で控え目な者は、こう。なのだけれど、全く思い上がりも甚だしいわね、あのクラルティとか言う庶民も、他の令嬢も》


 美しい金髪に青い目の女性が、私の居る部屋の方を扇子越しに見やった。

 それこそ、見下げる様な目をコチラに向け。


『あの方は隣に居らっしゃるシリル王太子殿下の婚約者様でらっしゃいます、本来であればアナタから話し掛ける事など絶対に有ってはならないのです、クラルティ嬢』


『ですけれど、シャルロット様』

『下の者が次々に気軽に話し掛け、果ては頼み事をしては上の者の仕事に差し障りが出ます。だからこそ爵位、立場によって対応を分けているのです、全ては秩序を保つ為に。その点もアナタは間違いを犯しました、出会い頭にアナタからアニエス様に話し掛けた』


『でも、マリアンヌさんも』

『彼女はアニエス様のご友人です、事前にアニエス様が許可しての事、貴族同士でも位の上下を確認し場の空気を読みながら話し掛けるかどうかを読むのです。行儀作法がしっかりしてらっしゃると聞いて期待していたのですが、行儀だけ、残念です。礼儀礼節は全く、貴族令嬢にすら及ばないのに貴族位などは到底無理ですよ』


『ですけれど』

『礼儀礼節とは謂わば規則の事、礼儀作法が完璧であればこそ。行儀作法に不備が無く、品行方正で有り、処罰についてもしっかりと認識している。それらが完璧だとの大前提の上で、功績を挙げてこそ、勲功爵や準男爵を賜れる。ですがアナタには無理です、上位貴族の企みや裏を考えず、ただ褒められた事を素直に受け取る、()()。それだけでは精々愚かな貴族の妾、愛人が限界です。アナタの居た場所では妾や愛人について悪い事では無い、そう育てられたそうですが。本来は恥ずべき事です、己の利のみを追及する自己中心的で不道徳な行い、子の不利益を無視する愚行だとされています』


『でも、王様だって』

『王、女王、最高位の特別な立場に在ってこそ行われる、時に不条理な決まり。アナタの本来の母親を地下に監禁し、娘2人をいがみ合わせ死に至らしめる様な者に、妾などもってのほか。アナタを教育した者も妾、産みの母親だと言われた者も妾、アナタ達の母親である正妻は、ずっと地下に居られたのですよ』


『……アナタ達?』

『3名とも、アナタ達はしっかり血の繋がってらっしゃる姉妹です』


『え、でも』

『お茶会に出てらっしゃった令嬢とされる者は、あくまでもアナタを教育した者の子、妾の子。アナタの産みの母親であり正妻とされていた者も所詮は妾、しかもその者に子は居ません、アナタ方の本当の母親は地下の牢にいらっしゃいました』


『何で、そんな』

『事実です、元勲功爵が全て証言しました。愛しているから、だそうです』


『え?』

『愚か者の多い中、嫌味や企みが飛び交う茶会にすら、愛しい妻を出したくは無い。そして正妻とされていた者は妾が産んだ子だと思い、アナタを教育した者は正妻だとされる者が産んだ子なのだと思っていた。娘を他の者に育てさせたのは、愛する妻を奪われたくなかったからだそうです』


 目の前の人が、何を言っているのか。


『そんな、何を、証拠は有るんですか』

『アナタの血縁者、元勲功爵にお会いしますか』


『でも、それでも、きっと拷問や何かをされたからで』

『産婆からも事情は既に聞いておりますし……やはりお会いした事が無いんですね、ご姉妹と』


『それは、お前こそが正妻の子だから、虐められてしまうから』

『娘全てに言ってらっしゃったそうです、お前こそが正妻の子だ、と。全ては暴かれない為に、妻を取られない為に。似てらっしゃいますよ、絵姿に、他にも証人は居りますが。アナタは誰から聞けば、納得しますか』


 私は、本当は誰の子なの。




『良く引き受けましたねシャルロット様』


『お前がアレを落とせ、得意だろうメナート』


 極寒の吹雪よりも冷ややかな視線。

 だから、なんでしょうか、ゾクゾクしてしまう。


『そうお願いする為に、引き受けたんでしょうか?』

『あぁ、真実が知りたかった、お前の真実もな』


『やっと聞いて下さる気になってくれたんですね』


『それで、アレを落とせないのか』

『いえ、手を出すなと厳命されていますし、無理ですね』


『何故』

『1度男に立て直され支えられた人生は、以降も男を必要としてしまう、彼女にはしっかりと独り立ちして頂く為だそうです』


『なら、やはり私にはお前は無駄だな、必要が無い』


 何の感情も籠っていない、吐き捨てられた言葉。

 これは、凄く嫌な気持ちになってしまう。


『任務、仕事だった、と』

『学園での噂も全てそうだとでも言うのか』


『いえ、ですけど』

『何が誤解だ馬鹿らしい、時間の無駄だったな』


『ちゃんと好きでしたよ、相手を。本当に嫌なら抱けませんから』


『そうか、お前の好意は枯葉より軽いんだな、要らん』


『今は違い』

『私が好意を向けないからだろう、アニエス様のように愛されたいのなら、生まれ変わりでも期待するんだな』


 本当に、もう、これ以降は関わって貰えないかも知れない。


 そう思うと。

 辛い、苦しい、悲しくて堪らない。


 今までなら、他の相手に突き放す様な事を言われても、何処かで気が楽になれたのに。


 全く、嬉しくない。

 離れたくない、関わりたい、構われたい。


『更に生まれ変わるので』

『そこは、どうなんだろうな。私も言っておいて今更考えたんだが、もし生まれ変わったとしても非童貞は非童貞のままだろう、童貞の証とは経験の無さや不器用さだと聞いた。そうなると前世の記憶が有る限り、肉体が童貞だろうとも結局は非童貞だろう』


『前世の記憶が有る前提なんですね』

『まぁ、そうだな、記憶が無くなれば私にも執着はしないだろう。死ね、消えろ、散れ歩く病原体が』


『待って下さい』

『触るな移る穢れる汚染源』


 汚物を見る目で手を振り払われて、初めて彼女を穢す事になるのかを考えた。


 僕は清廉潔白な彼女を穢したいだけなのか。

 好いているのか。


『その両方、なのか』


 人は独りになると考え込み易い。


 僕は、自らについて深く考え込みたく無かったのだと思う。

 誰かに相手をされ、誰かに相手をして貰う、そうして自分の本質から目を逸らしていた。


 無意識に、無自覚に、逃げていた。

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