子宮レンタル
「わたしたちのこと、どれくらい知ってるの」
「出産の仕組みとか、代理出産じゃないと子供が産めないとか」
エリカのため息が聞こえた。
「どうして知ってるのよ」
「エリカとツバサだけじゃないよね。そういう人たちは、いっぱいいるよね。その人たちは子孫を残したいと思っている」
エリカの二回目のため息が大きい。
「そいつらはバカか」と、エリカ。
「仲が良くて精神状態が安定した友人が一番うまくいくって言われているんだよ」
吐き捨てるように、言っている。
「で、その人たちに子宮貸すんだ」
「貸しません」
「なんで」
なんで?自分が死ぬかもしれないのに、他人の子どもを身ごもる選択肢があるわけない。考え方が根本的に違う。
「子どもがこの世に誕生するのが一番大事なんだよ」
は?
「命を懸けて子供を産み落とす。こんな崇高なことが.世の中に存在するなんて、すごいと思わない?」
いやいやいや。
「あなたしかいないんだよ。それを誇りに思うべきなんじゃないの」とエリカが言う。
「わたしの子どもを産んで。それは神を超える偉業ともいえるわけ。それがミサキの役割なんだよ」
早口でたたみかける。
「恵まれているくせに。子供が産める幸せをかみしめることもできないなんて、あんたバカじゃないの」
大声が響いた。
エリカが興奮してきたせいか、また周りがピリピリしてきた。エリカの顔は赤だった。
スタートは青からじゃなかったんだっけ?
いやいや、そんなことどうでもいい。集中しろ。
「これはチャンスなんだよ。ツバサの子どもが産みたいよね。これはすごいことなんだよ」
「いやだ」
「あなたは母親になれる。尊い子供が生まれるチャンスであり、義務でもある。拒否権なんてないんだよ」
「いやだ」
「これは決定事項だ。変えられないんだ」
怒鳴り声が響いた。
どうして、怒鳴られているわけ?わたしが悪いの?
どんどん体が委嘱してくる。耳をふさいだ。涙が出てくる。
「だまれ」
大声。マコトの声だ。外から聞こえる。
勢いよく玄関のドアが開いた。振り返る。
マコトは家の中に大股で入ってきた。
「勝手なこと、言ってんじゃねえぞコラ」と、マコト。
「え」
エリカの言葉がもれる。
「お前の声、外からダダ洩れなんだよ。誰がバカだよ、お前がバカじゃねえのか」
気弱なマコトが怒鳴っている。
「自分たちのせいだろ、子供ができなくなったのは。退化したんだろ、子宮が。自分の生活を、自由を優先して子供をつくる機能を低下させた結果、徐々に退化していったんだろうが。あんたたちにはまだ、子宮を持っているやつもいるから、そいつらが生き延びればいいんじゃないのか。子宮が退化したものは、そのまま滅びていく運命なんだよ。それがお前らの運命なんだよ」
「やめて」と、エリカ。
「こっちに責任丸投げするんじゃねえよ。おとなしく滅んでしまった方がいいんじゃねえのか。それが、自然界のルールだろ」
エリカの顔を見た。青だった。いつの間に。
そうか。世の中に適合できないものが滅んでいくんだ。
マコトがわたしとエリカの間に入った。
かばってくれている。
「ニ度とミサキの前に現れるな。わかったな」
「でも」と、エリカ。
「出て行け。ミサキの前に金輪際現れるな」
マコトが怒鳴った後、エリカは半泣きになりながら、家から出て行った。
「ミサキ。絶対にエリカに会うな」
マコトがわたしの両腕を優しくつかんだ。
わたしは腰を抜かして、しゃがみこんでしまった。
慌てていたのか、玄関にエリカの靴がある。
それを見て、ちょっとおあいこの気持ちになった。
その靴も靴下の入っているゴミ袋の中に入れた。




