エリカ、再登場
ブザーが鳴った。
家に帰ってきてからどれくらい時間たっただろう。寝落ちしていた。
玄関のドアを開けて、顔を見た。
やっぱりエリカだ。
家に入れた。本当は2人きりになりたくない。だけど、だから逃げるのも違う。ちゃんと、話さなければならない。
マコトはとっくに帰っていた。まあ、あいつにいられても邪魔なだけ。人見知りだから逃げるだけだろうし。期待はできない男だ。
エリカにコーヒーいるか聞いた。いらないって。だから、出さなかった。
玄関の外は暗かった。今日は土曜日。預かり保育の日だ。当番で出勤なのは知っていた。きっと、帰宅後にきいたのだろう。わたしが、エリカの部屋から出てきたことを。そして、マコトのことも。
奥のこたつまでは案内したくなかったから、玄関先の流しの前にある簡易テーブルに置いてある椅子に座ってもらった。自分も座る。
テーブルの上に口をつけていないビールがあった。マコトに渡したものだった。汗をかいていた。冷蔵庫に戻した。
彼女はテーブルを手で強くたたいた。
「子宮かさないって何。言ってることわかんないんだけど。どういう意味よ」
エリカの金切り声。耳が痛い。
よくもまあ、何度もこんな怒鳴り声が出せれるもんだ。尊敬する。
「貸さないってことです」
わたしはゆっくり話した。感情的にならないように。
「そんなこと、お願いしたことありましたか」
大声でまくしたてる。敬語が不気味だ。
はて。エリカにお願いされてなかったんだっけ。あ、そうか。開発研究室の馬面アベックから聞いたんだっけ。パニックになりすぎてるな、わたし。話の整理ができていなかったか。
少しだけ笑ってしまった。
「なんなのよ、その笑いは」
エリカがキレている。怒鳴り声、となりに響いていないのだろうか。
「ごめん、ごめん」
「わたしたちのこと、どれくらい知っているのよ」と、エリカ。
空気が電気を帯びてきた。ピリピリする。空気中の水蒸気量が多かったら、感電するのだろうか。
「知らないよ、なにも。托卵する宇宙人ってことも」
「はあ?」
エリカの金切り声は電気っぽい。
喫茶店での出来事を思い出した。二人でわたしをバカにしていた。価値のないわたしをリユースするって笑って話していた。ショックだった。
「ツバサとは付き合わないし、子宮も貸さない」
エリカの顔が青色に変化した。
はいはい。なんか、免疫ついてきた。
「あんた、何言っているの」
「死にたくないから、貸しません」
エリカの声のトーンが変わった。
「死なないよ、死なない」
「もう、そういうのいいよ」
しばらく沈黙があった。
「あたしたちのこと、どれくらい知っているのよ」
自分の髪の毛が上に上がっている。静電気がすごい。この家の中に雷が落ちるってことあるのかな。
ツバサの部屋を思い出した。
きっと、ツバサと球体のが見られたことを話したのだろう。いや、エリカの家にそれを使って移動したことを話したのか。それで、ツバサに言われて会いに来たとか。
顔は青から赤になりつつあった。
「何も知らない。宇宙人とかも、知らない」
「はあ?」
ああ、さっき言ったか。
「繰り返しになるけど、ツバサとは付き合わないし、子宮も貸さないし、会いに来るのも今回で最後にして。もう、友達でもないから」
「なんでよ」
「アンタのこと信じてないから」
「やめてよ、親友でしょ」
「死にたくないの」
「死なないって」
ウソつき、ウソつき。喫茶店で言ったくせに。リユースするって。わたしはアンタたちにとってゴミなんだよ。分ければ資源ってやつ。
「内臓食いちぎられて死なない人間がいるの?」
顔色が緑色に変化していく。白目も緑。自覚ないのだろうか。カメレオンか。感情の起伏と顔色はつながっているのだろうか。
「誰に生きたんだよ、それ」
「え?」
喫茶店?同じ職場の研究カップル?覚えてない。
エリカがわたしの顔をにらみつけている。
「知り合いの宇宙人かなぁ」
「まさか、ツバサ?」と、エリカ。




