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托卵   作者: 桐谷 光
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 家に帰った。

 玄関に入って足の裏を見る。ストライプガラの靴下は黒くなっていた。親指あたりには穴。足の裏が痛くて、指を丸めて歩いていた。小さな石が容赦なく土踏まずを攻撃する。声には出さなかったが、何度も叫びそうになった。

 エリカの家はここから近い。けど、いつもより長く感じた。家に入ってやっと安どのため息が漏れる。

「はいって」

 室内に入ったマコトの靴下を奪うように脱がせた。そのまま促して、浴室に入らせた。わたしも狭い空間に無理矢理入ってシャワーヘッドを持って足を洗い、マコトの足らしきものにかけた。マコトが小さく悲鳴を上げたが無視した。

 足をタオルで拭いた。マコトにも新しいタオルを渡す。

 ああ、幸せ。今まで靴よ、ありがとう。わたしの足を助けてくれていたんだね。心の中でお礼を言った。

 マコトの汚くなった靴下は自分の靴下と一緒にゴミ箱に入れた。勝手に捨てたのに、マコトは何も言わなかった。

 マコトはぬれた足で、奥に歩いていく。

「ツバサんちの玄関にわたしたちの靴、置きっぱなしだね」

「あ、そうだった。片づけなきゃ」と、マコト。

「いいんじゃない、勝手に捨てるでしょ」

 取りに行く気にはなれない。

 二足の靴がツバサの家の玄関に脱いだままにしてあるってことは、あの水球に入って二人でエリカの家に入ったってことが分かるだろう。それって、ツバサとエリカが宇宙人ってことがわたしたちにバレたってことだ。宇宙人とわからなくても、未来人とか、鬼とか、異次元人とか、とにかく普通じゃない人種ってことがバレたって気づくはず。

 冷蔵庫からビールを出した。500ミリ缶。二本出して一本を手渡す。自分の缶を開け、一口飲んだ。冷蔵庫前の簡易テーブルそばの椅子に座る。

「オヤジに、電話する」

 マコトも椅子には座ったが、ビールはテーブルに置いて、飲まなかった。そのまま、ポケットをまさぐって携帯を取り出し、画面に触っている。発信音が聞こえて、オヤジの声がかすかに聞こえる。

 あの水の球の中に入ったのに、電子機器は壊れてないんだ。つながるんだ。

 オヤジの声は怒っていない。ドアを開ける前はあんなに怒っていたのに。わたしによろしく言うように、って声が聞こえた。

 変なの。

「ツバサ君に電話つながったって。ドアの修理は来月だって」って、マコト。

「へえ」

 自分の声はびっくりするほど冷静だった。

 ツバサはあの球体どうやって隠すんだろう。

「お金は、いくら払えばいいの?」

「球体を家の中に入れるのはルール違反だから、ツバサ君に払ってもらうことになったみたいだよ」と、マコト。

「へえ」

 どういうこと。意味わかんないんですけど。

「ツバサ君、今月末までには引っ越すらしいよ。それから修理みたいだね」

「へえ」

「ねえ、エリカさんのお母さんにも、僕たち付き合ってるって言ってたよね」

「そうだね」 

「やっぱり僕らって付き合っているんだよね」

「そうだね」

 なんかもう、もう、どうでもいい。

 マコトの足を見た。マコトの足には指がなかった。ぬるぬるしているみたいに見えた。ヒダがついていて、まるでウミウシだ。青白くて紫でピンクで。

 エリカの顏を思い出した。

 どっちが怖いんだろう。 

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