部屋の秘密
「警察呼んでください」
わたしは言った。
「彼はわたしの大事なものを奪った。それが、この中にある。わたしは盗まれたんです。だから、彼から取り戻そうとしているんです。警察は呼んでも良いけど、彼を呼んでほしくないんです」
盗まれたと言ったらウソになるか。でも、全部がウソだとは言いきれない。
目の前にはボコボコにしたドアがある。塗装剝がれ、へこみ、キズ。すごい状況だ。
「ああ、こんなにしちゃって。ツバサ君になに盗まれたんだよ」
「デリケートな問題で。それは言えません」
「全く」
オヤジは頭を抱えた。
「ミサキちゃんを信じる根拠は何?ウソついてるんじゃないの?二人がケンカして、ムカつくからドアを破壊したんじゃないだろうね。最近仲良し三人組で飲み会していないし」
「ごめんなさい。もちろん弁償はします。いくらですか」
「お金だけの問題じゃないよ。警察呼ぶのは困るんだよなあ」
「ごめんなさい」
「ツバサ君に言いたくないって言ったって、ドア見たら何かあったかはわかるよね。本人に言うよ、確実に。誰がやったのか、そして理由もね」
「ですよね」
そりゃあ、そうか。そうなるよね。
「住人から泥棒がドア壊してるって連絡があって。まさか、ミサキちゃんとはね。マコト、お前がいてこのざまか」
「ごめん」と、マコト。
「変形して開かなくなってんじゃないだろうね」
オヤジはおもむろにスペアキーを出した。
「え」
思わず声が漏れる。
鍵をさして、ドアを開けた。ドアの開閉を確かめるように小刻みに開閉を繰り返す。
わたしはドアノブからオヤジの手をどけ、大きく手前に開けた。部屋が見える。ワンルームタイプでわたしの家とほぼ同じ造りだった。もちろん内装も雰囲気も違うけど。手前に玄関、突き当りにベランダ。奥が部屋。クローゼットはない。
部屋には荷物が何もなかった。死体も、ホルマリン漬けも、宇宙交信用のストーンも。
一つを除いては。
「ミサキちゃんが盗まれたものって、これ?」
部屋の中央に、直径2メートルくらいの透明の水でできたような球体が空中に浮かんでいた。球体は上下左右まとまりもなくゆらゆら揺れていて、まるで水族館の水槽みたいだった。でも、違う。水槽じゃない。確かに水。まとまった水の塊だった。それはまるで明るい光のある宇宙にも見えた。
「盗まれたと思っていたけど、勘違いだったかも」
ビックリした。のけ反った。反射的にドアを閉めた。
でも、一番びっくりしたのはオヤジの態度だった。マコトのオヤジはあまり驚いていなかった。




