宇宙人のくせに
そうだよね。怒るの当然だよね。そう思います、自分も。
「ウソついた。ごめん」
一応謝った。
「うそ」
大声でマコトが怒鳴る。ああ、聞こえてる。全部エリカに。
「ふざけるな。オヤジがどんだけ喜んだか分かっているのか」
「だって。ツバサとつきあいたくないもん」と、怒鳴る。
聞かれるとか、聞かれないとか。もう、どうでもよくなった。
「ふざけんな」と、マコト。
「じゃあ言うけど、アンタだってウソつきじゃない」
クソ宇宙人。わたしは悪いよ。認める。でも、全部私が悪いのか。
「ウソってなんだよ」
「うそつきじゃん」
「ウソなんかついてない」
「宇宙人じゃん。大ウソつき。地球人のふりして近づいてきて、わたしの事利用しているでしょ」
「な、なんだよ、それ」
あきらかに動揺した。ふざけんな。
「わたしに子供を産ませようとしている」
「は?」
「子宮を狙ってる」
「子宮って」
「わたしの子どもじゃない子を妊娠させようとしている。そして、わたしは死ぬんだ。子どもに食われるんだ。子宮ごと。わたしを殺そうとしているんだ」
「いやいやいや。まてまて」
「人殺し。わたしを殺すつもりなんでしょ。家畜だと思っているんだよね。あんたたちはわたしを食料だと思っているんだ。ヘンゼルとグレーテルみたいに、わたしを太らせて食べるんだ。結局そうだよね、食うのと一緒だ。離乳食、そう、わたしは離乳食なんだよ」
「り、り、りにゅうしょく?」
「自分のガキに食わせるんだ。離乳食だろうがよ」
怒鳴った。
ムカつく。
盗聴器が仕掛けられているかもしれないのに。もう聞いてるかもしれない相手には聞こえちゃってる。こいつがグルかもしれない時点で、わざと聞こえて怒鳴ってる可能性があると思った。テレビの声を超えて大声でどなって、もう近所迷惑だ。盗聴してなくても聞こえているかもしれない。
自分は感情的な人間なんだ。黙れなかった。
拉致られて監禁されて、食われて死ぬかも。そんな気持ちが少しよぎった。
こたつの天板から飲み物とパスタをキッチンに移動させた。それから、ベッドの上に置いてあった枕を掴んでマコトを殴る。さすがに素手では痛そうだし、ケガする。
「この、人殺し」
「違う、違う。なんで」
「ウソつき。お前エリカと同じ囲碁クラブだったじゃねえか。知ってんだよ。どうせ、宇宙人同士情報共有してんだろうが」
防戦一方のマコトを殴って殴って殴った。
涙が出てきた。号泣していた。
何の涙だろう。悔しいのか、怖いのか、わからない。ただただ、涙が流れた。
わたしの人生って何。子どもが好きで、幼児教諭と保育士の資格を取った。ただ、子供と遊べる仕事は楽しそうだと思った。それだけだった。でも、給料が少なく一人で生きていけない金額だった。今の仕事は保育士の二倍弱の給料。子供を産んで育てればいいか、と考えを変えた。でも、それもできない。
わたし、なにか悪いことしましたか?
マコトは枕を取りあげると、わたしの両手首を掴んで羽交い絞めにして、力でそのあと抱きしめてきた。
痛い。骨折れる。手の力を抜いた。すっぽりとマコトの中に入った。
なんだよこれ。ふざけんな。
「抱きしめたら、なんとかなると思ってるでしょ」
胸の中で叫んだ。体をバタバタと動かす。
「あんたの彼女出しなさいよ」
「か、かのじょお?」と、マコト。
マコトが力を込める。中にいるわたしは苦しくなった。絞め殺そうとしているのか?
「こんなんでごまかそうなんて、ムリだから。彼女とアンタの子どもを産もうなんて、これっぽっちも思ってないからね。殺すなら殺せよ、今すぐに。アンタの子どもなんて、ゼッタイ産まないからな」
わたしは怒鳴った。
「なんで、俺のこと信じてくれないんだよ。お前のことすごく好きなのに、なんでこんなにひどいこと言うんだよ。俺と、山田エリカはむかし同じ部活だったけど、アイツは幽霊部員で話した記憶もないし、俺みたいな末端の学生が話せる人物じゃなかったんだよ。同じ人種じゃないのは薄々感じていたけど、どんな人種かなんて知らねえよ」
マコトは泣きながら、手の力をゆるめた。
「ごめん」
泣き顔を見たら、少しだけ申し訳ない気持ちになってきた。
少しだけ。
そうか。まわりに付き合っているって言って、ウソをついたのはわたしだ。全部、わたしが悪いのか。
「ごめん。本当にごめん」




