ツバサ降臨
結局二時間残業した。部長補佐も手伝ってくれた。部下の残業は上司の責任なのだろう。それがなければ、もっと残業しなければならなかったから、助かった。
いつもよりかなり遅いバスに乗り、駅について電車に乗った。辺りはいつもより暗い。気持ちが暗いからか。酔っぱらいのサラリーマンの間を縫うように歩き、いつものバス停に歩いていく。
「ミサキ」
聞き覚えのある声。鳥肌が立った。ツバサ?
そうっと振り向く。やっぱり、ツバサだ。
「この間はごめん」
ツバサが下を向いて謝っている。マジか。
「こっちの方が悪いんだよ。椅子から叩き落すようなことをして、ごめん」
うわあ。ラスボス登場か。エリカじゃ駄目だから、本人が来た。
「来週の日曜日、飲みに行こう三人で」
キタキタキタ。絶対に無理。
「わたし、彼氏できたんだ。その人と約束している」
断っている。すごい。相手は超絶イケメンのツバサだよ。
「エリカが、彼氏できたって言うのはウソだって言ってるけど」と、ツバサ。
「ウソじゃない」
「俺、ミサキのこと好きなんだ。付き合ってくれないかな」
ウソみたい。ずっと、夢見てきた言葉だ。でも、今は気持ち悪いだけだけど。
「わたしは好きじゃない」
「お前は、俺のことが好きだ」
「わたしには彼氏がいるの」
「うそをつくな」
ツバサが肩に手を置く。それを振りはらった。キモイ。鳥肌が立った。
頭以外にも突起があるかもしれないから、それは気をつけなければ。けがはしたくない。
「どうして」
顔は見ないようにしよう。イケメンに気持ちが引きずられたくない。
「ごめん」
謝って、つい顔を見た。みちゃったー。ぶ然としている。拒絶されたの、はじめてなのかもしれない。プライドが傷ついたのだろう。
顔はやっぱりイケメンだけど、それだけだった。付き合いたいなんて思わないし、殺されるっていうのがあるからなのだろう、気持が揺れることはなかった。彼と生きていくなんて少しも思わない。
どうやって地球まで来たの?大がかりなロケットで?UFO目撃とか聞いたことないけど。ニュースで見たこともない。来たとしても、どこに隠す。砂漠とか海。海の中とか。森の中とか。
一番引っかかるのは動機。出産能力で選ばれるってどういう意味。なんか、バカにされてるように思える。内臓がキメテなんて、聞いたことない。ほめてないよね。
バスが来た。バスに乗り込む。ツバサは追いかけてこなかった。
周りの人がツバサを見ている。目立っていた。きれいな顔をしているのだから、彼女になってくれる人はいるはずだ。正直に話して、命を懸けてくれる人を探せばいい。説明して納得する人もいるかもしれない。わたしは無理だけど。




