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托卵   作者: 桐谷 光
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吐きそう

「時間終わっちゃうよ。ご飯食べようよ」

 心の中は穏やかではなかった。ツノの生えた宇宙人ってこと?地球外生命体?飛来?渡り鳥じゃないんだからってツッコミを入れたかったけどやめた。

 寒空の中、お弁当のふたを開けている。唐揚げにレタス、卵焼き。食事は日本人。エリカも普通の食べ物が好みだった。この二人は純粋に子供が欲しいんだろうけど、だからって犠牲になりたくはない。

「お前、何者なんだよ」

 榊原はさっきよりは顔色は悪くない。でも、警戒している。

「まあ、半分半分ってことかな」

 言葉が見つからない。適当に答えた。

「へえ、ハーフか。初めて見たけど、聞いたことはある。見た目もそんな感じだね。確かに私たちと似てるところあるかも。あれは?あれはないの」

 似てるわけねえだろ、って言葉はのみ込んだ。

「あれって?」

 疑われないように、言葉に気を付けている。神経がすり減ってきた。あれってなに。

 彼女はズボンのすそをめくった。ツノがある。二つ。

「ああ、あるよ」

 この間ケガしたときにできたキズ。カサブタができてそれらしくなった箇所があったから、腕をめくって見せた。それを見て、榊原の顔が緩んだ。

「私たちも探しているのよね。見つからないんだ。自分と相性がよくってウマが合わないとうまく妊娠できないじゃない。わたしの周りには居なくて、子供はまだ無理なんだ」

「難しいよね、やっぱり」

 必死で言葉尻を会わせる。

「彼の袋にはもう受精卵が入って、待機はしているんだけど、まだ機会がなくて待ってるんだよね。早く見つけたいけど。できれば早めにうまくいきたいでしょ」

「そうなんだ。不勉強で知らないんだけど、受精卵ってどれくらいもつの」

「5年前後だよね」

「5年」

 頭がパンクしそうだ。

「その都度補充すればいいから、慌てる必要はないんだけど。うまくいかなかったら永遠に失敗する気がするし。病むって聞くよね」

 妊娠するのって難しいんだ。まるで不妊治療している夫婦みたいだ。

「子宮って子供に食われるじゃない」と、わたし。

「そうだね」って彼女。

「困るよね」

「どうして」

 彼女が言った。

「人間の栄養素がしっかりとれるじゃない。合理的だよ」と、続けた。

 グロい。鳥肌が立った。彼らは捕食者なのだ。

「子宮を食わないで出てくる子供もいるって聞くけど、すごく痩せているんだって。栄養不良はかわいそうだよ。ただでさえ私たちは子孫を残しにくいんだから、健康優良児で生まれてこないと駄目なんだよ」

「そうだね」

 情報が入ってこない。

「子孫繁栄で言ったら、総務のめぐみちゃん。同期なんだけど、狙ってるでしょ、子宮。アイツらの星、もうないよね。くわしいことはわからないけど、完全入植狙っているよね。あっちはあっちで、ガチの生存競争なわけだから、敵より先に早く見つけないと」

 は?

 めぐみ先輩?ウソ。

 この世の中は宇宙人だらけってこと?

 あの優しい先輩が。まてまてまて。頭が追い付かない。

「めぐみちゃんにブスとかニワトリとかあだ名つけて経理の部長が飛ばされちゃったじゃない。地球もマジで訳のわからない所だよね」

「ホント?部長が」

 部長は空気が読めなさすぎな存在だった。そりゃあ、先輩は傷ついたに違いない。コンプライアンス課に通報するしかなかったのだろう。ひどすぎる。ほかに部長を黙らせることってできないかったのか?宇宙人なんだから。テレパシーとか、人を操ったりとか。目から光線を出すとか。

 二人はお弁当を食べ終わっていた。彼女の水筒には温かいスープもあった。心は温かいに違いない。昼休みの時間は限られている。わたしは気分が悪くて、食欲なんてわいてこなかった。寒い中、室内に戻ろうってことになって建物内に入った。わたしは愛想笑いをして会釈した。

「わたしから誘っていて悪いけど、気分が悪い。みんなの公園が寒すぎたからかも。戻る、ごめん」

 ほんとうに調子が悪かった。頭が痛い。割れるくらい。

 そのあとはお互いの職場に戻っていった。

 もう話したない。彼らとはそもそも考え方が違うのだ。

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