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托卵   作者: 桐谷 光
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3匹めの鬼

 雑用が減った。オヤジたちが押し付けてこない。仕事に専念できる。

 経費の申請をチェックして、次の給料に入金準備。すごい。もう終わった。今まで、本業の仕事ができずに、誰かのコピーや私用のおつかいに行かされていたのが全くない。リーダーが自分で書類をコピーしている姿を見て感動してしまった。

 これなら、仕事が今までより早く進む。書類を見て、自分の仕事が溜まっているのが分かった。でも、今までより早く終わりそう。

 イケメンがフロアーに入ってきた。経理課の看板前で立ち止まった。一週間前に来た男だ。確か、開発研究室の人。また申請用紙を取りに来たのか。わたしは立ち上がって、受付カウンターに移動した。

「申請に不備があったんですか?」

「まあ。いろいろ方針が変わって、すべて書きなおしになったんです」

「そうなんですね」

 細かいことは聞かなかった。予算を通すのは上の仕事だ。金額が高い場合、会議で予算も方針も決まるから書きなおしたところで、通るとは限らない。

 バインダーとボールペンを渡した。名前を書いている。榊原ユウジ。そうそう、こんな名前。

 イケメンくん、顔が長いね。もしかして?

 注意深く観察した。体全体をチェック。頭の上にだけ角が隠れているとは限らないからだ。エリカのパターンもある。ペンを持っている手を見て、思わずうなった。

 イボ、イボだ。

 見つけられたのは二つ。木っぽい色をして左手指の付け根と左手首側面にある。尖ってないみたい。でも、触ってないからわからないけど。一瞬で鳥肌が立った。

 記入した後、必要な紙を渡した。予備に一枚つけて。

「ありがとうございます」と、榊原。

 どうしよう、鬼だ。彼はドアを開けて出て行った。迷っていたが心を決め走っていく。廊下の先で歩いている榊原を見つけ、追いかけた。

「榊原さん」

 追いかけながら大声で呼んだら、振り向いた。

「はい?」

 彼はその場で待っていた。

 この男、自分でイケメンだって自覚がある。このシチュエーション。ちがう、ちがう。あんたに告白なんてするか。きっと何度も告白されて何度も振ってきた栄光の過去があるのだろう。違うから。違うっつうの。

「もうすぐお昼じゃない。一緒に食べない?」

「は?何でですか」

 不審者を見る目。そりゃそうだ、知らない人に昼飯を誘われるなんて常識ではありえない。でも、アンタは断れないはず。だって、わたしは経理課だから。あんたはこれからも、お金のことでうちの課に来るはず。わたしを拒否することは、経費申請ができないことを意味するって、そんなわけないけど。権限ないし。けど、この部署に行きにくくなるのは確かだよ。

「聞きたいことがある。ここの会社に彼女いるよね」

「いますけど」

「彼女もいっしょに。聞きたいことあるから」

 榊原から、よそいきの笑顔が消えた。能面とはこんな顔なのだろうか。

「なんで知っているんですか」

「職場であんなにイチャイチャしてたら、わかるだろ普通」

 この間の二人の様子を思い出して、言った。

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