助手席とられました
はあ?
黙れ黙れ黙れ。しゃべんな。
マコトの言葉にわたしの頭から湯気が出そうだ。さっきと違う意味で。
わたしは殺される。ツバサの子どものために保育器になって最終、食料だ。食い殺される。悲しすぎる。目の前真っ暗。
いやいやいや、頑張れわたし。そんなこと、考えるな。どうやって、この女を追い出すことができる。絶望するな、考えろ、考えろ。
「二人で食事したい」
マコトに微笑んだ。マコトの顏がニヤついている。
勘違いするなーボケ。誰のせいでこんな目に合っていると思ってるんだ。視界から消えろ。今すぐ出て行け。ニ度とわたしの前に現れるな。いや、ウソウソウソ。ちがう、助けて。今すぐわたしを助けろ。
「え、俺と?」
「そう、マコトと。どこ行こうか」
顔がひくついている。わたしはどう見えるんだろう。自分の感情もわからない。
「俺んち来いよ、タダだし」
マコトの言葉。
「いくいく。楽しみ」
エリカがさっと手を上げた。
「じゃあ、下に車止めているから乗って」と、マコト。
「タダ。最高」
エリカは立ち上げるとテレビを消して、カップを流しに置いた。
振り返るともう、マコトは視界から消えていた。部屋を出て行ったのだ。
エリカは呆然と立ち尽くすわたしの横をゆっくりと通り過ぎて言った。
「ちゃんと鍵忘れずに。電気もつけっぱなしだったよ」
それから耳元でささやいた。
「ミサキってウソつくの下手だよね」
エリカの顔を見た。青からの緑色。まじか。一瞬で鳥肌が立った。顔色が変わっていくことの自覚があるんだろうか。
「ウソじゃないから」
わたしは叫んだ。
車の中は静かだ。外は暗い。夜だ。
マコトに直接話をしないとわたしの状況を理解してくれない、でも前にはエリカがいる。車に乗り込んだときは、彼女づらして助手席に乗ろうとしたけど、そこはエリカに取られ後部座席に乗るしかなかった。マコトと会話すらできなかった。
「彼氏の横の場所とっちゃった。ふふふふふ」
エリカがマコトの横でつぶやく。後部座席からわたしの方へ振り向いたニヤニヤした顔の色は肌色だった。マコトは顔を赤らめながら何も言わない。内気なのは逆に良かったのかも。でも、マコトが変なこと言わないように監視しなければならない。落ち着かない。
マコトはガチガチ。エリカがきれいだから緊張しているのかも。2人が話したことを今まで見たことはない。
あの顔色変化、わざとなのだろうか。それとも自覚なし?
居酒屋にはすぐ着いた。車は家用の離れた駐車場ではなく、店の前駐車場に停まった。
車から降りて、運転席の横についた。エリカとマコトをふたりっきりにするわけにはいかない。
「危ないよ」
エリカがわたしの手の甲を引っ張った。車は動き出し、家の駐車場へと走っていく。
引っ張られた手を見て、喫茶店での、ツバサとエリカの絡み合った手を思い出した。急に胃にある内容物が逆流してきた。駐車場の横の草むらに走って吐いた。苦しくて涙が出た。
「大丈夫?」
エリカが背中をさすっていた。顔を見る。やっぱりきれいだ。心配そうな顔。どうしてそんな顔をすることができるの、捕食者のくせに。
「どうしたの」
マコトの声が後ろから聞こえてきた。
「なんでもない、お店に入っていい」
エリカがマコトに言う。
「座敷に上がって」
マコトが言った。




