空気が読めない男
「お茶でも入れるから、テキトーに座って」
マコトに言った。流しの前に立った。ケトルに水を入れる。でも、急須におちゃっぱを入れる気分じゃない。コーヒーか。スティックコーヒーがある。
観念したのか、マコトは玄関から廊下へと歩いてきた。ヨシヨシ。そのまま部屋へ行け。
マコトはわたしの後ろで止まった。不安そうな顏。睨みつけて、奥に行けと顎で指示。
カップも湯飲みも一個しかない。それぞれに入れて、こたつの天板の上に置いた。
お客だけに渡す、って感じでもいいし。招かざるエリカの分はないって解釈でもいい。でも、誰も飲み物に手を出さない。
テレビは時代劇が流れていた。興味ない。だれもチャンネルを変えようとしない。
マコトがこたつの前で立ったまま挙動不審な感じでわたしを窺う。
「なんか用?」
エリカを見た。
ツバサとくっついてほしいもんな、アンタ。説得に来たんだろ、どうせ。子宮借りたいって言ってたもんな。
「ねえ、飲み会しようよ、三人で」
エリカが言う。
「もう、わたしたちの関係は終わったんだよ。ツバサのことも興味ないし。どうぞ、わたしをはぶってください」
「そんなことないよ。ツバサはミサキが好きなんだから」と、エリカ。
どの口が言ってる。思ったが顔に出ないように気をつけた。
わたしは女優だ。茶番劇を乗り越える演技力をください。
「俺、帰る」
耐えかねたマコトが言葉を発した。
「せっかくコーヒー淹れたんだから飲んでよ」
わたしの威嚇的な口調に戸惑っている。キョドってるんじゃねえよ、マコト。化け物を残して帰るなんてありえないだろう。てめえ、男だろ。わたしを守れよ。
マコトは湯飲みに入った熱いコーヒーを一気に飲みほした。バカか。火傷したんじゃないか?
「飲んだから、帰る」
マコトは湯飲みを流しに持っていった。
やめて、帰らないで。
「待ってよ」
必死に訴えた。
「女同士の楽しい話があるだろ。俺、邪魔だろうし」
マコトは玄関まで行くと靴を履いた。
「だから、待って」
わたしはマコトの腕を掴んだ。力を入れた。
顔を見た。後ろ姿からしか見えないエリカにはわたしの表情は見えない。顔で訴えかけた。助けて。エリカに殺される。わたしの気持ちに気づいて。
「なんで」
マコトの一言。
このクソ男。バカの最上級。バカ、バカル、バカリスト。しらんけど。
こいつは無理だ。わたしの気持ちなんて一生分からない。
どうやって、自分の身を守ったらいい?




