また、エリカがやってきた。
帰ってきた。アパートの階段を上がる。玄関の前で止まってポケットをまさぐった。鈴のついたキーホルダー。それについている鍵を鍵穴に入れてまわした。
ロックがかかってない。
病院に無理矢理連れていかれて、鍵をかけていなかったのだ。足元を見る。サンダル。靴さえ履けなかった。
玄関のドアを開ける。室内は電気がつけっぱなし。「そりゃそうだ」と、つぶやいた。
後ろにはマコト。家に入ったら履いているサンダルを返さなければならない。
やっと一人になれる。今後の作戦を練ろう。ゆっくり考える時間が欲しい。
視界にエリカが入った。反射的に一回ドアを閉めた。閉めてから、ゆっくりドアを開けた。そうっと、中を覗き込む。やっぱりエリカがいる。
エリカはこたつに入っていた。
「ごめん、空いてたものだから。部屋に入って待ってた」
エリカが笑顔でこっちを見ている。
一瞬で寒気が全身にまわった。
玄関からは部屋が丸見えのつくり。廊下兼キッチンからエリカまでは一直線。しっかり見える。
後ろにいたマコトが、「じゃあまた」って言って帰ろうとする。振り返らず右手を後ろにのばす。服に当たって、そのまま強くつかんだ。腹の肉も一緒に。
「いたっ」って小声が聞こえた。
さすがに腹の部分は外したけど。服は死んでも離さない。
「お前、勝手に帰んじゃねえ」
心の中で叫んだ。
「遅かったね、鍵が開いていたからすぐに帰ってくると思って待っていたんだ」
とびっきりの笑顔。その裏の気持ちをわたしは知っている。
「普通に家宅侵入だよね。犯罪だよ」
言葉が勝手に出てきた。顔がひきつっているのが自分でもわかる。
「やだ、ミサキったら。うける」
エリカが笑っている。
「俺、帰った方がよくない」
小声でマコトが言う。無視した。
エリカと二人っきりなんてありえない。
不本意だがマコトを家に入れた。これで二度目。最初はケガをしたあの時。病院の後、痛くて何もできなかったから家に入って少し手伝ってもらった。今回はエリカがいるから。怖いのもあるけど、もう生理的に無理なのだ。
ドアの中に三人いる。しばらくの沈黙。雰囲気はサイアク。
全員同じ高校出身。タメ。エリカはマコトのことを、知っているかもしれない。もしかしたらお互い同じクラスになったことがあるかも。でも、高校はマンモス校だった。三年間一度も同じフロアーさえ重なっていなかったってこともありうる。それだと、顔さえ見たこともない可能性もあるし、実際知らない人も多い。マコトはエリカと違って陰キャだったし。同じ世界で生きてはいなかった。
まあ、わたしもエリカほどの陽キャではなかったけど。
テレビをつけた。空気をかえるにはそれ以外思いつかなかった。
沈黙からは解放された。




