驚異的治癒
手を引っ張られた。振り払った。この間みたいに抱きしめられたら困る。こっちはもう、死にそうなテンションなのだ。睨みつけた。が、気づいていないのか、また手を握られた。強引に引っ張られた。
どうして、わたしの周りにいる人たちはわたしの意志を尊重してくれないのだろう。
そのまま、勢いで外に出た。階段を引っ張られたまま駆け下りて、車のある所に連れていかれた。足が絡まりそうだった。何度か、こけそうになった。この男はわたしのことなんかお構いなしだ。大丈夫かとか、足元に気を付けてとか、言葉をかけるタイミングはあったはず。気遣いなんて存在しない。あんなにスポーツと無縁だった同級生、力が強い。手は痛いし、足も痛い。階段の手すりに体が何度も当たった。絶対、体中青あざになった。わたし、ケガして包帯巻いてるんですけど、視界に入っている?
誘拐?犯罪だよ、これ。靴履いていませんけど。
車に乗って、病院に行った。後部座席にのっていたサンダルを借りた。
病院は少し込み合っていた。予約時間はとっくに過ぎている。
受付に行った。診てくれるという。
かなり待つことになりそうだけど、自業自得。忘れていたわたしが悪い。
マコトを見た。
なにか、声をかけてくれるとか。
心の響く何かがあったら、さっきの階段爆下り青あざ事件は不問にしようと思ったが、なにもない。大丈夫だよ、とか、俺が守るとか何か言ってくれたら。卵を産み付けられる側。死ぬ側。鬼から逃げきれるのか。絶望のど真ん中にいる。わたしはいま闇にいる。
しばらくして診察室に通された。マコトも中に入ってきた。
包帯をとったら、きれいに治っていた。傷跡の筋はまっすぐに伸びていて、でもふさがっていた。痛かったのは糸とホッチキスみたいな金具。肉が引っ張られていたからだったのか。ピンセットで取られて処置は終わり。治癒力の早さに医師も驚いていた。
鬼の傷はすぐに治るのか。
涙が出てきた。
「どうしたんだよ」
マコトが言った。
うるせえわ、だまれ。
頭を抱えた。傷が治ったってしょうがないよ、死ぬんだから。子どもに食われるんだから。
マコトが肩を抱いたが、振りほどいた。一人になりたかった。




