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托卵   作者: 桐谷 光
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サイアク。

 新聞を見たまま、放心状態だった。気がついたら二人はとっくに喫茶店を出ていた。わたしも、体を引きずるようにして店を出た。

 どうやって家に帰ったか覚えていない。病院に行こうと思っていたことも忘れたまま、ベッドに寝ころんでいた。アイツらに殺される。鬼を信じるとか、角が生えているとかもうそういうレベルではなくなっていた。

 ベッドで寝ころび天井を見ていた。何かがチカチカ光っている。携帯だった。画面をスライド、マコトからだった。

「病院どうだった?」のメッセージ。

 それどころじゃない。無気力。無視した。

「既読無視かよ」って、ライン。そのあと、大量のスタンプ投下。すねたキャラクターの連打で大量の短い音。うるさい。めんどくさい。電源を切った。

 静かになって、再度寝転がっている。天井にシミ。あったっけ、こんなの。

 悲しい。怖い。いろんな気持ちが体の中をいっぱいにした。

 誰に相談したらいい。

 卵を産み付けられ死ぬムシいたよね。あれだ。

「わたし、鬼の子どもに体の中から食われて死ぬんだ」

 誰に言う?こんな話、誰が本気にする?

 わたしは卵を産み付けられ、死ぬ。その子供を優しい親友のエリカが引き取るっていうのだろう。

 子どもが好きだ。お母さんになって、子どもを育てたいってずっと思っていた。こんなのあり?わたしは死ぬ。死ぬんだ。

 気がついたら夜になっていた。何も食べていないのにお腹は空かない。あ、モーニングは食べた。

 チャイムが鳴った。無視した。激しくドアを叩かれた。そのあと、ドアのノブが激しく回された。ガチャガチャと音がする。

 うるさい。エリカ?卵を産みつけに来たのか?いや、二人の話の流れから考えると、産み付けるのはツバサだ。

 のぞき窓を覗く。エリカではない。ドアを開けるとマコトが室内になだれ込んできた。

「うるさいなぁ。勝手に入るな」

 勢いでなだれ込んで、玄関内で倒れて床に手をついているマコトを、仁王立ちで見下ろした。

「お前だって俺んちに勝手に入ってきた」

 両手を叩きながら、ついた何かを払い、マコトは立ちあがった。

「勝手に入ってないよ。おじさんがいれてくれたの」

「オヤジが勝手に入ったって言ってた」

「ウソつくな。そんなこと言うはずない。入れてくれたのは本当なんだから」

「ふん」

 マコトが不機嫌な顔をしている。なんだよ、それ。こっちはあんたにかまっている心のメンタル持ち合わせていないんだよ。誰とも話したくないし、家に入れたくもない。一人になりたい。

「なんで無視するんだよ」

「は?」

「病院行ったのか」

「ああ」

 忘れていた。今日は通院の予約をしていた。

「ああじゃねえよ、いったのか」

「行ってない」

「バカか、今すぐ行くぞ」

「いいよ、行かなくて。気分じゃないし」

「バカか、行くぞ」

「いいよ、もう閉まるし」

「行くぞ」

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