エリカも鬼
甘い声で耳元にささやいてくる。
いやいやいや。今のなしにならないよ。十分怖いよ。
手を伸ばして、馴れ馴れしく手を触ってくる。怖い。手をはねのけたけど、微笑みながら近寄ってくる。もう、ホラーだ。いつもなら「ごめーん」ってわたしが抱きついて終わりだった。でも、ムリだ。
「まだ疑ってるの、イヤだ」
エリカが抱きついてきた。怖くて体が動かない。でも、体がエリカを全身で警戒している。
「怒っているんでしょ。ツバサがあのとき助けなかったし、私も出て行ってしまったから。ちがうのよ。びっくりしたの。あのときはああするほかなかった。ごめん。私が悪かった。許して。一人にして悪かった」
エリカは抱きしめた手をゆっくり離した。確かめるようにわたしを眺める。張り付いた視線。エリカの肩とわたしの二の腕が当たった。
固い突起があった。今まで気づかなかった。こぶよりも小さくて硬くて尖っていて。もしかしてツバサと同類。頭に角があるとか。
エリカの長い髪を見た。髪の毛はペッちゃんこ。角が生えていたら分かるはずだ。もしかして鬼って、頭以外に角を持っているパターンもあるのか。
じゃあ、二人は鬼の兄弟だったとか。顔も少し似ているし雰囲気もまあまあ似てる。それなら、ツバサの部屋から出てきてもおかしくない。血がつながっているのに隠す意味は何?
テレビの音だけが聞こえる。時折コーヒーを飲むエリカの音。
「体調悪いから、マジで帰ってくれないかな」
ほんとうに調子が悪かった。エリカの顏ヘンゲを見て、体調が悪くならない人間なんているわけない。自分はきっとひどい顔色をしていたと思う。全身鳥肌だし。
エリカは素直にわたしの言うことを聞いて、出ていった。
わたしのツバサに対する疑いがはれたと思ってはいないだろうけど、このままいてもしょうがないと思ったのだろう。こっちは、もっとエリカに対しても疑念を抱く結果になったけど。自分の顔色がどんなだったか、自覚はないのか。化粧が剥がれたときのわたしと一緒だ。
はあ、疲れた。
もらったシュークリームを返そうとしたが、エリカは受取らなかった。こたつにのっている。視界に入って邪魔だった。
ゴミ箱に投げ入れた。一発で入った。ナイス。立ち上がって、袋菓子もゴミ箱に入れた。鬼の手にふれたものを食べる気にはなれない。
もう、ムリなのだ。一生仲良くなれない。
彼女がうちに来てご機嫌をとる理由はなんだろうか。
わかったことがある。それは、二人が人間じゃないってこと。
やっぱり鬼だ。
顔が赤や青、緑色なんて鬼以外になにがある。




