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托卵   作者: 桐谷 光
23/56

昔のアルバム

 大笑いの後、恋愛観を聞いてみた。手をつなぐようになってからが付き合っていることになると思っているらしい。マコトの真っ赤な顔を見て、頭の構造を少しだけ理解した。

「男の部屋に行くってことはね、いろんなことを見えないところでやっているかもしれないってことなのよ」

 そう言いつつ、飲み会のことを思い出した。あのときはツバサの家に行きたいって言った自分がどんなに愚かだったか。酔っ払っているとはいえ、行かなくて本当に良かった。

 エリカちゃん、どうぞどうぞ。プレゼントするよ。いらねえわ。アンタもだけど。

「じゃあ、俺たち付き合っているってことになるわけ?」

 うわ、ダルっ。こいつ面倒くさすぎる。

「それは違うな」

「なんでだよ」

「信頼関係がないから。ツバサが鬼だって信じてくれないから。わたしの顔を見て笑うから」

 すでにすっぴん状態だ。顔なんて、どうでもいい。

「笑ってごめん。衝撃的な顔だったから。でも、今はかわいい」

 うざ。うざすぎる。

「そういうの、いらないから」

「でも」

「マコトが鬼を信じないから」

「逆に聞くけど、信じる人いると思うか?」

 確かに。そうだろうけど。

「角が生えてた。ツバサの頭、今度確認してよ」

「ほんとうかなぁ」

「やっぱり、わたしのこと信じてない」

「なにかと、勘違いしたんじゃないかな。例えば、キズが腫れてもりあがったとか」

「違う」

「もっと冷静になったら」

「やっぱり信じていない」

 なんかこのどうでもいい会話。疲れてきた。

 しばらくの沈黙。ここにいる理由も見当たらない。

「帰る」

「なんで」

「疲れた。帰る」

 頭の中にいる想像のエリカが、こちらに手を振ってドアを閉めた。ドアの奥からツバサとの笑い声が聞こえる。ムカつく。でも、怒るのも疲れた。

「送っていくよ」

 断ろうと思ったがやめた。うだうだと、意味のない会話が続きそうだし面倒くさい。ケンカもしたくない。

「うん」

 帰ったら寝よう。

「車まわしてくるから、待ってて」

「うん」

 マコトは家から出て行った。

 部屋には一人。

 静かになった部屋を見わたす。大きな本棚があって高校時代のアルバムがあった。なつかしい。

 手に取った。開く。マコト。わたしもいる。集合写真。同じクラスだった。お互い、いまより若い。マコトは黒ブチ眼鏡でがり勉。無表情だ。

 八組のクラスメート。最近誰とも会えてないな。

「おーい」

 玄関からマコトが呼んでいる。

 そのままアルバムを見ていたら、マコトが居間に入ってきた。

「行くぞ。何見ているんだよ」

「うん」

 ページをめくる。横でため息をされたが、聞こえないふりをした。

「エンジンかけっぱなしだから、早くして」

「うん」

 そう返事しながら、またページをめくる。

「早くしろよ。路駐なんだよ」

「うるさいなぁ」

 アルバムを閉じて、元の場所に戻そうとしたら元あった場所、すき間の奥に紙が入っているのが見えた。手を伸ばして取ってみた。折曲がっていて汚いけど、写真。

「あ」

 マコトが悲鳴のような声で叫んだ。一瞬で奪い取られた。でも、見てしまった。

「見た?」

「見た」

 思わずはっきり言ってしまった。濁すこともできたのに。うかつだった。

 写真はわたしだった。教室の隅っこでテスト勉強しているだろう様子。隠しとりっぽい。ぶれていた。

「なに、それ」

 もう、聞かずにはいられない。アンタ、わたしの事好きだったの?

 マコトはそれには答えなかった。

「早く。車に乗れよ」

 マコトは劣勢なはず。なのに、偉そうにしゃべった。ムカつく。

「うん」

 気まずい空気の中、外に出た。ちゃんと、家まで送ってくれた。

 沈黙。

 車での会話はなかった。

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