ブサイクすぎるやろ!
「裏切られた」
わたしの言葉を、マコトがオウム返しに言った。
食べ物の出前をツバサの家で受け取ったのがエリカだったと知ったこと。エリカとは、ツバサがどっちと付き合っても親友関係は解消しないと伝えていたこと。たまにツバサとの仲をたきつけるような発言をしていたこと。
台所の先に8畳ほどのリビングがある。ガラスのおしゃれなテーブルに黒の合皮のソファー。そこに案内されてマコトと飲んでいる。アルコールじゃなくて、牛乳。飲みかけだったビールは、シンクに捨てられた。
2人で牛乳って、どうゆう状況?
「なんで牛乳よ」
お酒を飲む前に牛乳はいいって聞いたことがある。胃がコーティングされて粘膜にいいのだとか。いや。そもそも、液体が胃にとどまるとか、ありえるのか、疑問なんだけど。二日酔いにきくのだろうか。肝臓に優しいとか。都市伝説の可能性だってある。
「牛乳おいしいよ。ミサキはアルコール禁止されているんだから、ビールはダメだよ」
は?呼び捨て?お前はうちのセクハラ部長か?
マグカップに入った温かい牛乳。ぬるかった。一気飲みした。口に薄い膜が口に張り付いた。牛乳って温めると膜が張るのね。はじめて知った。
マコトは残した肉じゃがとご飯で夕食を食べ終わらせた。
その姿をなんとなく見て、さっきまで大泣きしていたことを思い出した。
ヤバイ。目が腫れてる?化粧は剥がれているかも。目がパンダ。ありえる。
顔を下に向けた。手でひさしを作って、前髪を一生懸命指先で引っ張った。
「親友だと思っていたのに」
そう言いつつ、自分の気持ちに集中できない。
「いやいや、一回整理しないか。そもそも、部屋から出てきたら付き合っていることになるのか。わからないだろう。エリカさんはむしろ切磋琢磨して、ミサキとツバサくんを奪い合いましょうって言っているわけだから、いらぬ疑いをかけられるように家に一度も行ってないテイで話したのかもしれないし」
「ツバサの部屋から彼女は出てきた。わたしを入れないのに。これで十分でしょう」
室内から外を開けるエリカを想像してみた。勝ち誇った表情。
「決定的瞬間を見たわけじゃないんだろう」
「部屋にいたって、おじさんは言ってたけど。わたしは見ていない」
見なくて良かった。ぶちぎれしそうだ。
「そうじゃなくて」
「なに」
「わかるだろ、あれ」
想像のエリカはドアノブを握ったまま、わたしを見てニヤついている。ムカつく。
「わからない」
「わかるだろ、ほら」
「わからない」
「あれだ」
「なに」
「だから、あれ」
「あのね。オブラートに包むのやめてもらっていいですか。肉体関係ですか。それなら、見てませんけど。なんですか、やってるのを肉眼で見ないと、付き合っているって判断されないんですか。そんなもの、見るか!」
怒鳴った。お前、言わせたいだけだろう、このド変態が。
下を向いていたけど、化粧が剥がれていたことも忘れて吠えていた。
「なんだよ、その顔」
マコトがわたしの顔を指さして大笑いし出した。腰を曲げてひいひい言っている。
立ち上がって勝手に洗面所に走った。大きな鏡に目の周りが真っ黒で、化粧の剥がれた顔が映っていた。ブサイクすぎる。ぬるま湯で洗ったが取れない。勝手にタオルも借りて、手洗い用のソープでこすりまくった。つっぱって、置いてあった化粧水をぬりたくって、必死で拭いていた。
わたし、なんでこんなところにいて、いま何やっているんだろう。
なんか、笑えてきた。半分笑って半分泣いて。もう、ぐちゃぐちゃ。
まあいいか。




