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托卵   作者: 桐谷 光
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ケンカしてます

「早くしないと、病院閉まっちゃうだろ」

「お酒飲んで病院行くなんておかしいって言ったの、マコト君なんですけど」

「いやいや、言ってないって」

「ごちそうさまでした。肉じゃがおいしかったって、おじさんに言っておいて」

 肉じゃが多すぎた。小皿で取って食べて正解だった。半分以上残した。本当はタッパーに入れて持って帰りたいけど、今の雰囲気では言えない。

「待てよ」

「帰れって言ったのそっちなんですけど。さようなら」

「送っていく」

「いい」

「家から少し遠いよね。送っていく」

「いい。歩いて帰る」

「酔っ払っているくせに?まっすぐに歩けるのか」

「歩ける」

「さっきはごめん。俺が悪かった。だから送っていく」

 わたしの顔を覗き込んだ。近い。顔を背ける。

「しつこい」

「この酔っ払いが。送るって言ってるだろ」

「歩いて帰るって言ってます」

「酔っ払い」

「ご迷惑かけてすみませんでした。さようなら」

「ホント、迷惑なんだよ」

 わかっている。だから帰るのだ。この罵りあい、いつまで続くんだよ。

 黙った。

「待てよ」

「送るよ」

 マコトが話続ける。うざい。

 バックを肩にかけた。玄関と居間に続くドアノブに手をかける。あとはまっすぐ伸びた廊下を進むだけだ。

「歩けるのか」

 よろけた。そんなにアルコールを取ったつもりはないけど、心が弱っているのか。もう、どうでもいい。そのまま進んだ。

「無視するなよ」

 うしろを振り返り、見た。

 ああ、イケメンではないな、と思った。でも、自分だって大したことはない。そんな女が、ツバサと付き合えるなんて思うべきじゃなかったのだ。こんな目にあったのは、当然の報いなのだ。自分のせいなのだ。そして、エリカだってきれいだった。なんで二人の間に入れると思ったのだろう。おこがましい。すべて自分のせいだ。

「だから、ごめん。謝っているだろう。送っていく。そんな足取りで車に引かれたら、俺のせいになるだろ」

 ああ、それっていいかも。車に引かれたら、すべてがチャラになる。

「待てよ」

 玄関の廊下の前に立たれた。マコトを見上げた。ツバサより低い身長。それでも、わたしよりは高いか。

「どいて」

 マコトを抜いた。もうすぐ玄関だ。靴が見える。そろえてたんだ、賢いぞ自分。

 後ろから手を掴まれた。ふりほどこうとしてけど、手は離れない。強い力だった。痛い。強く手を引っ張ったら、引き寄せられよろめいた。そのままマコトの腕の中に引き寄せられ、強く抱きしめられた。アルコールのせいか、心臓が激しく鼓動しているのが分かった。

「ごめんって、言ってるだろう。悪かった。どうしたら、許してくれるんだよ」

 抱きしめられてる?なんで?

 わたしの頭を触っている。わたしには角なんかない。確認した?

 見た。マコトには角がはいていたりして。

 涙があとからあとから流れていく。何の涙。自分でもわからない。

「だから、ごめんって。許してよ」

 なんで、何度も謝るんだよ。そう思いながら泣いていた。

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