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托卵   作者: 伊藤禎二
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ミミズ腫れ

 翌朝。

 会社に出勤して掃除。机を拭いてから給湯室で飲み物の準備をする。

 今からお茶くみ。年功序列順に、カップを机に置いていく。部長はブラックコーヒー、部長補佐はミルクなしの砂糖小さじ二杯。リーダーは濃い日本茶。チーフは最近変わったばかりで、急にド忘れ。手帳を確認。コーヒーで砂糖とミルク一杯ずつだ。最初の仕事はこれだ。バカげているが難しい。部長より部長補佐の方が入社が先だから神経が擦り切れる。

「ミサキ」

 部長に呼ばれた。お盆にはみんなのカップがずらりと並んでいる。早く配り終えたい。

 ブラックコーヒーはすでに渡している。ぬるかったのか。配る人が多すぎるのだ。

「すみません、入れなおした方がいいですか」

「手、大丈夫か」

「え」

 お盆を掴んだ手からデカい絆創膏。家にはこれしかなかった。自分の視界からも見えていた。傷口に菌がついて食中毒になったらまずいな、と密かに思っていた。手も石鹸で洗って大丈夫だと思うけど。

「あ、これ」

 視線が動いた。

「子供みたいにこけたのか、気をつけろよ」

「ありがとうございます」

 何がありがたいのか不明だが、一応お礼を言った。

「ついでに救急箱の中身確認して、補充しといてくれ」

「はい」

 事務所全員のカップを配り終えてから、給湯室に戻った。手を見る。右手の人差し指と中指の間に細いスジがあり、手の平中央あたりに深い傷がある。長袖をめくった。スジは肘のあたりまで続いていた。ミミズ腫れ。地味に痛い。カミソリで皮膚をなでられたような痛さ。

「なんで」

 独り言を言いながら昨日の夜を思い出した。

 ツバサに抱きついた。エリカに髪の毛を引っ張られ、爪で手をひっかけられた。そして、派手にこけた。スカートがめくれた。

 パンツ見られた。なんてこった。死ぬ。昨日のパンツ、バーゲンで買ったかわいくないやつ。見られた、見られた。どうしよう、見られた。人生の汚点。記憶から抹消しよう。よし。あの位置からならツバサには見えない。となりのオヤジだけに見られたかも。うん、大丈夫。よし、忘れた。ああ、パンツ。どうしよう。

 いやいや、わたしはこんなこと考えたいわけではない。

 ズキズキする手を見た。ツバサに激しく抱きついた。しがみついたとき手を広げすぎて、つむじに触った。記憶はあまりない。状況が分からないけど、あのとき、つむじに触って固い鋭利な何かに触った感覚があったような。ナイフとかカッターみたいに鋭利なものだったとか。

 頭を左右に振った。

 いやいやいや。そんなことあるわけない。

 じゃあなんだ。

 いろいろ考えてカサブタだと結論づけた。きっと、カサブタがとがっていてケガした。そうだ。そのはず。あるある、そんなこと。

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