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托卵   作者: 桐谷 光
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エリカがきた

 ケガした次の日の月曜は仕事は休んだ。

 こんな手じゃ、お茶くみも机も拭けない。朝昼兼用でもらったサンドウィッチとおにぎりを食べた。手にビニール袋を巻いてシャワーも浴びた。

なんとなく時間は過ぎて行った。夜の闇が迫ってきた夕方六時半くらい。エリカから電話がかかってきた。

「ケガ、大丈夫?」

 エリカの声を聞いたら、うっすら涙が出てきた。決別しようと思ったけど、やっぱりエリカが好き。今のままでは心細い。別居している母親とは、場所も心にも距離がある。電話するつもりもなかったし。

「まあまあ、かな」

 死ぬほど痛いと思っていたけど。痛いとは言わなかった。

 自分が悪いのはわかっていた。突き飛ばして勝手に頭頂部を触ったのだから。その結果がこれ。自業自得?頭触ってケガするとは思わなかったけど、自分のせいだ。だけど、だからってけが人のわたしを無視して去るって。店を出ていくって、やっぱり許せない。エリカはツバサが好きだから、彼を追いかけるのは仕方ない。仕方ないと思うけど、やっぱり納得できない。だって、わたしたち親友でしょ。ツバサと出会う前から、友達だった。なのに、男に負けた。あの男に。

 ツバサも変だ。急に突き飛ばされたとして、自分の意図しないケガだとして、自分は危険な角を持っているわけだから、救護義務はあるはず。あの態度、ありえなくないですか。

「今、アパートの前にいるんだけど、入ってもいい?」

 携帯を定位置に置いて、ドアを開けた。アパートの外廊下上についている蛍光灯はオレンジ色でまぶしい。その周りを虫が飛んでいる。玄関前の踊り場兼通路、その前にある柵に手をかけて下をのぞき込む。アパートの前でコンビニの袋を提げて、携帯を持った手でこっちに手を振る人物。逆光みたいな形で、顔は見にくいけど。エリカ、エリカだ。

 わたしも左手をあげて大きく振った。大袈裟に手招きのジェスチャー。すると、階段を駆け上がる足音がした。

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