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托卵   作者: 桐谷 光
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イタイ。

目が覚めた。窓を見る。明るかった。ベッドから出ようとして、手が痛いことに気が付いた。あー、イタイ。めちゃめちゃ痛い。ズキズキする。手を見る。右手は肘あたりまで包帯でぐるぐる巻きだ。

「そうだった」

 ひとりごと。子どものころからの癖だ。

 昨日のことを思い出した。ツノ。ツバサ。あと、エリカ。

 立ち上がる気力もない。寝っ転がったまま、天井を見る。白い壁紙にシミ。あったっけ、こんなの。

 シミが広がったら人の顔に見えるだろうか。人の顏から角が生えてくるとか。

 バカバカしい。

 考えるのをやめた。

 どうでもいい、なんて思いながら考えは止まらなかった。あれは何。ツノじゃなかったらなんなんだ。マコトは自作自演って言った。わたしが無意識に自分を傷つけたと。

 なんのために?

 ありえない。

 いたー。痛い。マジで痛い。

「うぐ」

言葉にもならないものが口から洩れた。

 薬はどこだ。

 ベッド横のサイドテーブルを左手でまさぐる。飲みかけのペットボトル。ティッシュ、目覚まし時計。あとは何もない。

 立ち上がった。部屋を見渡す。

 痛み止め、もらったはずなのに、どこに置いた。

 ワンルーム。クローゼットにベッド、こたつ、サイドテーブル。

 キッチンには小さなテーブルと洗濯機。冷蔵庫の上に電子レンジ。流し、その横。

 置きそうなところを見たが、見当たらない。床に落としたか。

 ベッドの下まで見たが、見つからない。

 ウソでしょ。

 昨日持っていたバッグ。逆さまにして、中身を出した。ハンカチ、化粧ポーチ。携帯。財布。メモ帳。箱に入ったチョコレートに飴。レシート。

 ないないないない。

 えっとー。思い出せ。

 昨日、病院から、薬をもらってカバンにのせるように置いた。マコトのデカい4WDにのった。窓の上の持ち手につかまって、痛みを耐えた。頑張った。薬はその時どうだったのだろう。

 家まで送ってくれた。アパートの階段を上がって、家まで来た。玄関のドアの鍵がうまくさせなくてマコト開けてもらった。あのときカバンを思いっきり家の中に投げ入れた。

 かばんがあったところを探した。やはり薬はない。

 あの後は風呂も入らずにそのまま寝た。自分の姿を見る。やっぱり昨日の服のままだ。

 薬は?

 記憶を病院の帰り、車に乗り込んだところから、もう一度巻き戻す。マコトが車のドアを開けて、ケガをしていない手で窓の上の手すりを掴み、ステップに足をかけてなんとか助手席に乗り込んだ。大きな黒い車体。夜の中に溶け込んでいた。

 なんで、四駆?あのときは腹が立った。

 車に乗る前はカバンの中から、大きな薬袋が見えていた。でも、乗ったとき勢いもあって、カバンからこぼれていたのかも。家に着いてからカバンの中に入っていたかなんて、記憶にない。そもそも、あの時はそれどころじゃなかったから覚えてないだけかもしれないけど。

 車高が高かったから勢いよく乗ったんだよ。それは確かだ。あのとき車の中に落としたか、外に落としたか。どっちかとか。

 どうしよう。

 それしかないって考えしか浮かばない。

 どうしよう、どうしよう。

 家の中を歩き回って、薬を探す。見つからない。マコトに電話する?いや、連絡先なんて知らない。居酒屋に電話しようか。いやいや、こんな朝早く出るわけないし。

 掴んだ携帯を玄関横の洗濯機上のラックに置いた。定位置だ。充電器につなぐ。

 家の中を三周したくらいで、インターホンが鳴った。

 ドアを開けた。マコトだった。

「なによ」

 ムカついて、声を荒げた。

 病院に連れて行ってくれた恩も忘れて、偉そうな態度をしているのは自分でもわかる。でも、ムカつく。このケガは自作自演。それって、なに。意味がわからない。

 薬を鼻先に押し付けられた。

「これ、車の中にあった」

「ふん」

 一瞬、うれしくて抱きつきかった。だけど、不機嫌なふりをする。

「朝食作れないだろうから、コンビニで買ってきた」

 マコトはそう言うと、ビニール袋もわたしに渡した。

 菓子パン。サンドウィッチ、おにぎり。コーヒーも入っていた。サイコー。気が利く。

 お腹もすいてきた。

「ああ、うん」

 ありがとうも言えない自分が恥ずかしい。

「出勤前で時間ないから、要点だけ言う。連絡先教えて。なにかあったら、手伝うよ。利き手けがしたらなにかと困るでしょ。携帯出して」

 玄関横の洗濯機ラックにある携帯を勝手に取られ、連絡先を入れられたが黙っていた。助かる。これからエリカにお願いすることはないだろうし。

 ありがとうも言えなくてごめんね。

 心の中でそっとあやまった。

 

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