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托卵   作者: 桐谷 光
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点滴

「アンタの気持ちはわかったよ。いいから。帰ったら。お父さんによろしく言っといて」

 ムカつく、ムカつく、ムカつく。わたしの視界に入ってくるな。

「何言ってるんだ。一人で大丈夫なわけねえだろ」と、マコト。

 話すというより、怒鳴られてるレベルだ。

 店忙しいだろ。戻れよ。

「大丈夫だよ、ご苦労様でした」

 嫌味っぽく言った。ほんとうにムカつく。

 続けて文句を言おうとしたら、看護師が待合室までわたしを呼びに来た。わたしは椅子から立ち上がった。

 当直室前のソファーには赤ん坊はいなかった。受付の横には夜間診療って書かれたドアがあって、中に入ったら普通の診察室だった。でも奥には器具が固められて置いてあったから、倉庫も兼ねているのかもしれない。

 机の前に座っている医師は、あきらかに外科の医師ではない、と思った。今晩の当直医ってだけだろう。まじか。泣きたい。状況を説明してタオルを取った。自分では目を覆いたくなったが、医師は顔色を変えなかった。

 かなりの広範囲の傷口。でも、思ったほど血は出ていなかったみたいだった。縫合したあと、診察室の横の小さな場所に案内された。処置室、と書いてある。くぐった中は、細長い寝返りも打てないベッドがずらっと並んでいた。

 看護師がわたしにベットに寝るように促した。これから点滴を受けるのだ。

 体調の悪そうだった赤ん坊が奥のベッドに寝ていて、点滴を受けている。その両親がそのベッドの前の小さな丸椅子に座っている。座った両親の横に中年の看護師がいて話している内容が聞こえた。入院するのか。今からひとりが病棟に行って、もう一方が一旦家に帰って荷物を取りに行くらしい。入院の書類に名前を書いている。

 わたしの腕に針が刺さった。点滴。今まで、視界に入らなかったマコトと目が合った。

 

 点滴が終わった。立ち上がった。頭がフラフラする。

 横にはマコトがいた。保険証提示も支払いも薬の受け取りも、点滴をしている間に全部やってくれていた。財布を取り出そうとしてもたついたわたしの手から財布を受け取り、受付に行ってくれた。いつの間にか薬の紙袋の入ったビニールの袋さえも渡された

 情けなかった。泣きたかった。

 結局何もできなかった。

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