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托卵   作者: 桐谷 光
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鬼かもしれない

 総合受付前の椅子に座った。隣にマコトも座る。

 静かな空間で、しばらく黙っていた。マコトも何も話さない。

 さっきまで興奮していた脳が冷静になっていく。起こった出来事を反芻し、整理された気分だ。

 わたしはケガをして、助けられることもなく彼らに放置された。わたしは見捨てられたのだ。エリカはツバサを選んだ。人間じゃないツバサを。

「大丈夫?痛くない」

 声のした方を振り返った。一瞬忘れてた。マコトだ。横にいる。

 マコトはわたしの手を見ている。タオルは真っ赤になっていた。

「わたし、見ちゃったんだよね」

「何を」

「いつも一緒に飲んでるイケメン知っているでしょ」

「何が」

「黙って聞いてくれるかな」

 いらだつように言うと、マコトは黙った。

「今日一緒に飲んでいたあの男の子。あの子の頭に角が生えてた。それも、三本」

「は?」

 マコトの顏。ひきつっている。

「頭の上に角が生えていた。バランス悪く。二本が横並びで、その斜めちょっと下に八重歯みたいにななめって少しだけ長いヤツが。全部で三本。二本はちょっと丸いこぶみたいに変形してなんか木っぽいんだけど、一本斜めにはいているヤツがキレ味抜群で。説明がしにくいんだけど。こぶっぽいのはデキモノで説明するには無理があって。あれはゼッタイ角だった」

 マコトは唖然とした顔でわたしを見ている。

「わたしの事、酔っ払って頭が変になっているって思ってないよね。あれは事故かもしれないけど、ツバサの角に切られた」

 マコトは言葉を発しない。

 ほんとうにあれは角だったのだろうか。とんでもなくヤバイ、角質が盛り上がったモノとか。いやいやいや。角だ。角だって。あれは。

 突然こんなこと言われても、何も言えないよね。わたしは頭がおかしくなったと思われても仕方ないことを言っている。でも、本当だから。

 マコトの表情を見る勇気がなかった。

 バカかわたしは。何を言っているのだろう。わたしは自分の気持ちを共有してほしいのに。急に角生えていたって言われて、「そうなんだ。大変だったね」ってかえしてくれる人間いるか。

 ツバサって何者なの。鬼かな。桃太郎に出てくる、鬼の祖先とか。テリトリーに急に人間がやってきて追い出されて、二葉中野市まで出てきて大学に入ったとか?こぶとりじいさんの話にも鬼はいたかも。山に住んでたけど、下界に下りたくなってやってきた、とか。あそこに登場する鬼って、宴会好きだったからな。ツバサも遺伝的にお酒が好きだったりして。鬼が人間に進化して角だけが残ったとかもありえるよね。それとも、あの世で地獄の番人してたけど、機械化の波には勝てず、職がなくなり、仕事を求めて地上に来たとか。だから、職業に関してもまじめ、とか。

 鬼か。ツバサは鬼か。

「鬼って節分生まれなんだ。やっぱり」

 頭がバグってわけがわからない言葉が出てきた。

「んなわけ、ないだろうが」と、マコト。

「わたしの手を見てよ」

 そう言ったが、そう言われても仕方がない。

「角に当たってキレる?そんなわけねえだろ。自分が何か持っていたんじゃねえの。それで、自分で切ったんだろう。人のせいにするんじゃねえよ。酔っ払って現実と夢のはざまでさまよっていたんだよ」

「はあ?」

 どうしてそうなるの。いつわたしが自分を切りつけたんだよ。左手で右手を切ったとして、こんなところまで切れるか。見たらわかるだろ。

 鬼のことは信じなかったとしても。わたしの自作自演ってこと?こんなに血を流して、これは演技なの?何のため。ツバサに責任取ってもらって、結婚を迫ろうとして見えたってこと?

 ありえない。もう、冷めたんだよ、気持ちが。なんで、あんな男のために自分を切りつける必要があるんだよ。

「人のせいにするなって言ってる」

 黙った。信じてほしいと本気で思ったわたしはバカだった。

「もういい」

「何怒っているんだよ、診察始まるから最初の場所に戻ろう」

「帰りなよ、マコトは。あとは、一人で大丈夫だから」

「字も書けないのに?」

「うるさいわ」

「わけわかんねえな、お前は」

「早く帰んなよ」

 タクシーが病院前で待機してくれる保証はないけど。もう、どうでもいい。わたしの人間性を信じない人間とは一緒にいたくない。

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