革命の赤②
目ヶ暮「薫さーん。」
鬼島「……私の上司ですよ。苗字で呼ぶべきです。」
目ヶ暮「…はぁ…望月さん。」
望月はふわっとした意識の中で2人の会話を聞いていた。
望月「…よかったな。ふぁ。仲良くなって。」
目ヶ暮と鬼島はパッと目を合わせたが、不機嫌そうになった。
目ヶ暮「望月さん。まだ夢の中ですか?」
鬼島「ほら、ちゃんとしてください。着きましたよ。」
まるで、熟年夫婦が、赤子をあやすようなやり取りをしていた。
望月「…ん?着いた?」
鬼島「はい。」
望月「あぁ。ありがとうございます。」
うーんっと伸びをした彼は、そそくさと降りる準備をする。カバンの中の重量は変わらない。
ホームに降り立った3人。
望月「えっと、駅まで迎えが来ます。あと、とりあえず仕事なんだけど…。」
目ヶ暮「え?今話します?お腹空きません?」
鬼島「…。」
ぐーっと鬼島のお腹が鳴る。
望月「コホン。失礼。落ち着けるところに行って話そうか。」
3人は、どこででも見られるファストフード店に向かった。
目ヶ暮はハンバーガーにコーヒーだけだったが、鬼島はセットと2、3個ハンバーガーを頼んで、恥ずかしそうにしていた。
望月はなんだか食欲がなく、コーヒーのみ。
席に着くや否や、望月は口を開いた。
望月「とりあえず旅行と偽ってすまなかった。」
望月は目ヶ暮に頭を下げた。
目ヶ暮「うーん…。もしこれが本当にただの旅行なら、私来てませんでしたけどね。」
目ヶ暮はニヤリとしていた。検討がついているのだろう。
望月「鬼島さんも説明不足で申し訳なかった。予定とか大丈夫でした?」
鬼島「い、いえ。署にいても、特にやることなかったので。」
鬼島の何気ない一言が、望月の罪悪感をくすぐった。
望月「そういえば…すみませんでした。俺のせいで気まずくさせちゃって。」
鬼島はばばっと目の前で両手を交互に振り、
鬼島「と、とんでもないです!やることがないことはいつものことなので!」
と言い放ったが、望月はそれでいいのかと苦笑した。
望月「さて。」
全員がそれぞれ注文したもののほとんどを胃に入れて、あとはポテトだけとなった時、望月は話し出した。
望月「仕事です。特に目ヶ暮。協力して欲しい。」
目ヶ暮「やれやれ…。私、自営業なんです。暇じゃないんですよ?」
しかし、目ヶ暮はさほど嫌そうではなかった。
望月「鬼島さん。目ヶ暮のサポートを。」
鬼島は、え?っと驚いたが、渋々と、
鬼島「…かしこまりました。」
と、返答したのだった。
ここに、3人が集められたのは、この町で、闇オークションが開催されており、さらに、今回は同じ2枚の絵が出品されると内通者から情報が入ったからだ。
加藤『詐欺担当の奴ら、オレオレとかそういうのは得意だが、美術はからっきしだ。お前のチームでなんとかしてやれ。』
と、加藤からこの話を提示された際に言われたので、大体の事情を察せられる。
望月「今回行われるオークションに、同じ絵が2枚出品される。目ヶ暮には、真偽を見極めて欲しい。」
目ヶ暮「ふーん…。仕方ないですね。」
と嬉しそうだった。
その反面鬼島は不機嫌なままだったし、会話にも入ってこない。
目ヶ暮「大体、今日はなんの絵なんですか?」
望月「あぁ、そういえば…なんだっただけな…。」
目ヶ暮「いやいや。」
目ヶ暮は嘲笑しながら望月を責めた。
目ヶ暮「なんの絵かも把握してないのに大丈夫なんですか?」
すると、鬼島が席からガタンと立ち、『ごちそうさまてました。』と言うと、トレーをゴミ箱に捨て出した。
望月「…あとは、目ヶ暮は美術商として動向を探ってくれ。俺たちは客に扮して参加するから。」
鬼島「え?オークション…って…ど、どんな服ならいいですか?!」
鬼島は、ドレスコードが必要そうな場所に行くとは思っていなかったので、パンツスーツを身に纏っていた。
望月「あ、すみません…お伝えしてませんでしたよね。」
望月は頭の後ろを掻き、困った顔をした。
望月「…ドレス買いましょうか。」
鬼島「ど、ドレスですか?」
望月「うん。俺はスーツですが、鬼島さんはそれでは浮いていまうかと。なので、夫婦という設定で侵入できればなと…。あれ?これって…セクハラなん…ですかね?」
望月は珍しく赤面していた。
それに鬼島は、目を潤せて、赤面の顔で返す。
鬼島「や…役不足です!」
望月「…はは。ですよね…。」
2人のすれ違いを目の当たりにして、目ヶ暮は心の底からため息をついた。