革命の赤①
望月達は新幹線に揺られていた。
一見して和やかな旅行のようだが、その実、3人は話せずにいた。
雄大な自然が窓の外に広がっており、絵のように止まって見えるが、ふっとトンネルの中に入ると、憂鬱そうに窓の外を眺めていた望月の顔が、鏡となった窓に映った。
望月「…。」
目ヶ暮「…。」
鬼島「…。」
目ヶ暮は先日の鬼島への告白直後に、思いっきり頬を平手で殴られ、結果『鬼島は無理』と判明していた。
望月に旅行を提案されたが、鬼島が来ることなど聞いていなかったので、柄にもなく不貞腐れている。
一方、鬼島も、望月からの出張の申し出に、一層ドキドキとして、前日は眠れないほど旅支度に熱中していた。
すると、ホームで一番最初に見つけたのが目ヶ暮だった。『まさか』と思いつつ、少し離れた距離に立っていると、望月が私服姿で登場した。そして、勿論鬼島と目ヶ暮を交互に見ると、『どうしたんです?そんなに離れて。』と言うものだから、旅支度の努力も水泡となった。
勝負下着まで着けてきたのに。
一番困惑していたのは望月だった。
2人に合流してから、2人とも話す気配もない。
『どうしたんだよ?』と、気さくに聞いてみるも、2人とも目も合わない。
やはり、俺は嫌われているのか…?と不安になっている望月は、窓から視線を移せないでいた。
『仕事』ではあるものの、せっかくの遠出だ。カバンの中には、甘いお菓子や、塩っぽいお菓子がたくさん入っていたのに、このまま開けることはなさそうだと残念に感じていた。
到着予定駅は日本地図の南西にある、とある都市だ。
加藤から旅行に行けと命令された時はなにがなんだかだったが、二つ返事で受けてしまったため、内容を聞いて驚いた。
加藤「応援だ。」
加藤は、自分のデスクに座り、望月を睨むように見ていた。
望月「応援…殺人ですか?」
加藤「いいや?」
加藤は深く椅子にもたれた。
加藤「詐欺だ。」
望月「詐欺…ですか?」
加藤「うん。」
望月は驚いた顔を加藤に見せたが、加藤はなんともないように返した。
望月「しかし、小官は一課の所属ですが…。」
加藤「すまんすまん。」
加藤の手が望月の言葉を遮る。
加藤「お前の飼い犬に用がある。」
望月「か、飼い犬ですか…?」
望月はもちろんその言葉を飲み込めなかった。
彼は、そんなふうに人を使ったりするような、倫理に外れることをしたくはないと、常々思っていたからだ。
だから、加藤のその言葉は耳馴染みがなく、まさに、青天の霹靂だった。
加藤がギッと椅子を鳴らし、望月に座ったまま詰め寄る。
加藤「…色々、散々、見逃してきたよな?」
望月はごくりと息を呑む。
加藤「…飼い主だろ。綱は持っとけよ。」
望月にそう放った加藤は椅子をくるっと回し、外を見た。
加藤「旅行日和だな。あ、あと、あのお前がたぶらかした新卒の女。手柄あげたせいで、また居場所がないみたいだ。そいつも連れて行け。」
望月「え、いや…しかし…女性ですよ…?」
加藤「なんだ?セクハラか?」
と、加藤はニヤリと笑った。
望月「…いえ。」
望月は『失礼しました。』と、頭を下げてその場を去ったのだった。
それが今この状況を作っている。
加藤はわかっていたのだろうか?
いや、流石に…と、望月は彼を疑うことを止めた。
望月「…なぁ。」
痺れを切らした望月は、窓を見ながら声を2人にかけた。
だが、2人とも動かない。
望月「すまん。俺のせいで2人とも、こんな来たくもない旅行に付き合ってくれたんだよな。」
それを聞くと、2人はビクッと反応した。
目ヶ暮は『はぁ。』とため息をついて望月を見た。
目ヶ暮「薫さん。全然ですよ。これは楽しい旅行。ね!」
と、目ヶ暮は望月にウィンクをした。
鬼島「……薫さん、て…」
目ヶ暮「ん?なんですか?鬼島さん。」
鬼島「……いーえ。」
目ヶ暮「…。」
目ヶ暮はその反応にムッとして、また通路側に顔を向け、肘をついて黙った。
鬼島「…。も、望月さんはなんにも悪くないです!むしろすみません。要らない気を使わせてしまって…。」
目ヶ暮「そうだそうだ。」
鬼島「…。」
鬼島はまた黙って下を向いた。
望月「…。あぁよかった。俺嫌われてるんじゃなくて。」
また、3人は定位置に戻り、黙ってしまった。
到着駅まで後2時間。
寝てしまおう。いや、寝れるのだろうか…。