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彼女になってあげる

 屋上に着くと、他にも複数の生徒がいた。全員カップルかよ。


 なんだか気まずいけど、邪魔にならない隅の方へ向かい――俺は柵にもたれ掛かった。



「今日はそこそこ混雑してるな」

「そうだね……あ」

「どうした、夢香」

「あそこのカップル……キスしてる」



 夢香の指さす方向には、イチャイチャしているカップルがいた。こんな人前で構わずキスを繰り返していた。


 クソ……俺だってああいう青春を送りたかったぜ。


 もう高校三年生。

 高校生活も残りわずか……その前に彼女でも作るべきか。


 ……いや、無理だな。

 不可能だ。

 俺には夢香の相手で精一杯だ。



「ここは入ってはいけない禁断エリアだったな。帰るか」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。わたしが彼女になってあげるもん。それなら居辛くないでしょ?」


「夢香が? ……せめて、普通の(・・・)女の子(・・・)になってくれたらなぁ」

「ええ~、夢香はこれが素だもん。ありのままをお兄ちゃんに受け止めて欲しいな」



 無邪気に抱きついてくる夢香。

 こうされては俺は降参するしかなかった。


 あの日。

 出会った一年前……夢香は心身ともに酷くボロボロで立ち直れそうになかった。



 両親が交通事故に遭ったとか。

 住む場所すらなくなって路頭に迷っていたようだ。


 そんなとき、俺の親が夢香の親と旧知だったらしく、頼ってきたのだとか。


 当時から俺はボロアパートで一人暮らししていた。

 いつも家賃を払っているのだから、夢香の面倒を見ろと押し付けられたのだ。


 当初、彼女は死んでいた。

 抜け殻のような存在で毎日が危うかった。


 俺はそんな彼女を励まし続けた。


 来る日も来る日も。



 気づけば、夢香は俺を“お兄ちゃん”と呼ぶようになっていた。



「そうだな、夢香はその方が個性があって良い」

「そうでしょ。このネイルだって、よ~く見ると模様とか入っていて維持が大変なんだから。格安のネイルサロンとか通ってるし」



 今はこの流れるままの毎日で良い。


 でも、俺はいつか夢香を普通の女の子に変えたい。そうじゃないと、どんどん地雷系女子に染まっていくからだ!

 部屋も謎のゆるキャラ人形で埋め尽くされているしな。


「ご飯にしよう」

「うん。今日はコーラとキャロリーメイトだよっ」


「ですよねぇ」

「はい、お兄ちゃん。食べて~♡」



 夢香はいつの間にかキャロリーメイトを胸の谷間(・・・・)に挟んでいた。


 ……な、なんてところにッ!?

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