二人きりで寄り道
あれから授業はあっと言う間に過ぎ――放課後。
席を立とうとすると隣の女子が話しかけてきた。そういえば、名前なんだっけ。
「ねえ、平田くん」
「あー…すまん、義妹待たせているから」
「あ、そっか。ごめんね。じゃあ、また明日で」
「? あぁ、分かった。こちらこそ悪い」
軽く手を振り、俺は教室を出た。
……あの隣の席の女子、なにを言おうとしたんだ?」
* * *
俺は二年の教室へ向かった。
迎えに行くと夢香がちょうど教室から出てきて、俺の方へやってきた。
「あ、お兄ちゃん。今行こうと思っていたの」
「そうだったか。でも、あの小鳥遊なんとかから守らなきゃだからな」
「うぅ、あの人……苦手。ていうか、夢香はお兄ちゃんしか興味ないし」
腕に抱きついてくる夢香は、そうハッキリと断言した。その言葉に救われる俺。
「所詮、ヤツに勝ち目などないのにな。しつこいやつだよ」
「うん、諦めてくれるまで頑張るしかないね」
「大丈夫。今度、ハッキリ言ってやるよ」
「さすがお兄ちゃん! さっさと追い払ってね」
「任せろって」
学校を出て――今日は寄り道していくことにした。
普段はどこかへ寄るなんて、あんまりしないのだが……夢香を幸せにするのが俺の義務なのだ。可愛い義妹の為にお小遣いを使うくらい、構わないさ。
「お兄ちゃん、こっちアパートじゃないよ?」
「今日は良い所に連れていってやる」
「へえ、えっちなお店とか?」
「なんでそっちの方面なんだよ!? 違うって。カラオケさ」
「カラオケかぁ。いいね、たまには歌ってストレス発散だねっ」
ぱぁぁと明るくなる夢香。
俺と住む前は、ひとりカラオケ“ひとカラ”をしていたようだ。だから、俺となら行ってくれるし、歌は俺も好きだからな。
夢香となら歌えるわけだ。
というわけで決まりだ。