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5話:呆気ない邂逅

ちょっと間が空きました。

お付き合いくだされば幸いです。

「皆、大丈夫?」


 こちらに近づいてきた少年は、心配そうに辺りを見回す。

 艶のある赤髪が、月光を反射して煌びやかに光っていた。

 倒れ伏す男女には目もくれようとしない彼は、年齢にして十二、三くらいだろうか。

 纏った衣服は一見質素ながら上質な素材が使われており、その立場がただの平民でないことを伺わせる。


「お前が、やったのか?」

「そう。私が殺した」


 問いかけに対し、 返ってきた答えは極めて簡潔。

 事も無げに告げるその姿は、至って冷静そのものに見える。

 命を奪って動揺するような素振りもなく、ただの子供でないことは明白だった。





「ここだ。この場所に彼女がいた」

「成程ね。ここなら、そう見つからないわ」

 

 実際見つかってしまったわけだけど、と傍らで少年が失笑する。

 あの後自分たちを助けてくれた彼と共に、全ての始まりとなった狭い路地へ来ていた。

 事の顛末を伝えたところ、彼はこの場所に案内してくれと頼んできたのだ。

 どうやら、ここで出会った青い髪飾りの少女を気にしているらしい。

 こちらとしても彼女をそのままにしておくつもりはない。再度現場を確認するついでに、彼を案内した。


「これが他の子たちが言ってた露店の?」

「ああ。いつもここに仕舞っているようだ」


 壁際に、粗末な布でできた天幕が畳んである。

 日中、この肉体の持ち主たちが営んでいる露店のために手作りしたらしい。

 決して状態は良くないが、補修の痕跡が所々に見えた。

 彼女たちなりに、大事に使ってきたのだろう。


「お友達、家に置いてきて大丈夫なの?」

「ここに連れてくるよりかはマシなはずだ」


 商売仲間でもあるシャルトナとリーニャ。彼女たちは既に家まで送り届けている。

 あんな事があった直後だ、安心とまでは行かなくとも自身の住まいにいてもらうのが一番無難だろう。

 

「あの影になっているところ?」

「そうだ。もういないようだな」


 路地の突き当たり、他の建物に遮られて月の光が届かない一角。

 麻袋に詰められていた少女が放置されていた箇所を確認するが、既にそれらしき人影はない。

 破れた袋の切れ端が多少転がっている程度だ。


「まあ、見つかったのにそのままにはしておかないでしょうね」


 確かに、一度発見された以上場所を変えるぐらいはするだろう。

 明らかにあれは誘拐や拉致の類だ。人目についていいわけがない。

 当然とでも言いたげな表情を見せる少年。これまでの言葉に加え、顎に手を当てもう片方の手でその肘を掴むその仕草はまるで―

 

「なあ。お前って女なのか?」

「なっ! わた……ぼくは男だよ!」


 思わず口を突いて出てしまった疑問に対し、彼は肩をびくりと震わせる。

 いかにも慌てた様子で出してきた答えは、こちらの疑いを更に加速させた。

 一人称を言い淀んだことに加え、さっきから垣間見える女性的な言動。

 おまけに先ほどから現在まで至って冷静なまま。外面に対して中身があまりにもかけ離れている。

 年齢だとか見た目の割に、とかそういう次元ではない。まるで彼の身体を別人が使っているような、そんな気がしてならない。

 現に自身がそうなのだ。うら若き少女の肉体を借りている恥知らずが、ここにいる。

 それにもう一人、こういう状況になり得る存在に心当たりがあった。


「そういうお前はどうなんだ! さっきから口調が変だぞ!」

「え、俺はそんな」


 顔を真っ赤にした少年の反撃に、考え事をしていたのもあり思わずいつもの口調で喋ってしまう。

 しまったと思った時には、既に手遅れだった。

 目を向けると、あらん限りの軽蔑を込めてこちらを睨みつける一対の瞳が視界に入る。

 少し経って、呆れを前面に押し出した深く長いため息を吐きはじめた。

 いつだったか、他人の言動から学び改めなさい、と言われたことを思い出す。


「教えなさい。貴方の名前は?」

 

 気まずい空気がしばらく流れた後、少年が問いかけてきた。

 おそらくこちらと同じ考えに至ったのだろう。

 直前のやり取りの際とは打って変わってはっきりした力強い物言いに、何かを見透かしているような澄んだ相貌。

 外見とかけ離れた威圧感を放つその身体が、ほんの一回り大きくなったように感じられる。


「っ、ヴェティ。ヴェティ・フォールン」

「それはその子の名前。貴方は違うでしょう?」


 苦し紛れの回答は、目の前の彼には通じなかった。

 ぴしゃりと言い切るその姿は、本当は違うのだろう、正直に言いなさい、と言外の意思を滲ませていた。

 お前はどうなんだと言い返す事も許されないほどの重圧が華奢な肉体に襲い掛かり、息が苦しくなる。


「エニグマ。それが私、いや俺の名前だ」


 もはや誤魔化してもどうにもならない。

 目を伏せ、大人しく真実を伝える。


「そう。やっぱりね」

「やっぱり? 気付いていたのか?」


 答えを聞いた少年、いやその姿を借りた何者かはふふっと笑って見せた。

 きっとそうではないかと予測していたかのような、どこか意地悪そうな表情。

 その姿を見て、今まで頭の片隅にあった一つの可能性が急速に現実味を増す。


「お前! まさか!」

「そうだよ。久しぶり、ってほどでもないわね」


 目の前にいる『誰か』はかつて死闘を演じ、その果てに運命を共にした魔王、ルストアに相違なかった。

 外見にその面影はないが、凛とした佇まいと先の問答における殺気にも似た圧力。

 彼の中身が彼女だとすれば、合点のいく話ではある。しかし。


「信じられない?」

「それは、お互い様だろ」


 いまひとつ、確信しきれない。

 やはり外見のもたらす印象が大きいのだろうか。

 再会という奇跡を、どこかであり得ないと思ってしまう。


「私は、信じるよ。信じるしかないもの」


 そんな不安を感じ取ったかのように、少年に宿った魔王が眼前に歩み寄ってきていた。

 口の端を上げて微笑むと、こちらの手を取る。

 冷えた指先から、その心情が伝わってくるような気がした。

 そして縋る様に、祈る様に、しかしはっきりと告げる。


「だから、貴方も信じて」

お読み頂きありがとうございました。

少し展開が雑になってしまいました。なんとか改善していきます。


※感想、ブックマークお待ちしております。

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