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500年前の陰謀

 私はヘンリー・オコーネル。18才の若き公爵家当主である。

 未来からやってきた私の娘ステラマリンによって、私とステラマリンは王家によって断罪され処刑される運命だという事がわかった。

 その運命を覆す方法は無いか探す為に王立図書館に向かったが、そこでハンフリー・イルド氏による「英雄王リチャード1世の回顧録」という本を見つけた。

 私達は詳しい話を聞く為にイルド氏に会いに行く事にした。

 私の能力で本を複製し、王立劇場の衣装部でリチャード1世の当時の衣装を借りた私達は、500年前に時間を遡るのだ。

 私と娘の命掛けの時間旅行の始まりだ。


 私は片手でステラと手を繋いで、片手で回顧録を抱えた。

私がハンフリー・イルド氏を探知して、ステラの時空魔法で時間を遡るのだ。

 

「用意は良いかい?ステラマリン」


「はい、おと…ヘンリー様」


「では出発しよう」


  執務室の風景が消えて、真っ暗な空間を飛ぶ感覚がする。

 私はイルド氏を探知する事に集中した。

しばらく時間を遡っていると、イルド氏を探知した。

 私はそちらにステラを誘導すると、先に明るい光が現れた。

 その光に向かうと、ふいに重力を感じ私達は床に手をついて目的地に着いた事を知った。


 そこは冷たい石造りの建物の中だった。

どうやら王城の中の一室のようだ。

 窓以外の壁には天井まである書棚があり、ぎっしりと本が並べられている。

 その部屋には2つの扉があり、奥の部屋と反対側は廊下に出られるようだった。

 私達は奥にある扉をノックした。


「ハーシュか?喉が渇いた。お茶を持って来てくれ」


 中から声がしたので、私達はゆっくり扉を開けて中に入った。

 机に高く本を積んで忙しそうに書き物をしている

白髪頭の痩せた老人がいた。


「ハンフリー・イルド博士でいらっしゃいますか?」


 私が声を掛けると老人はこちらを向いて応えた。


「いかにも私がイルドですが、貴方は?」


「私はオコーネル公爵家の者でヘンリー・オコーネルと言う者です。初めまして博士。お会いできて光栄です」


私が言うと、イルド博士は立ち上がってこちらにやって来た。


「オコーネル公爵家?オコーネルの盟約の?」


「博士はオコーネルの盟約で、オコーネル公国がマルゲード国に編入された経緯をご存知でしたか」


「もちろんですとも。私はリチャード1世陛下とオコーネル大公閣下が調印する場所に立ち会った文官の一人です。今日は大公国からこちらまで?」


「イルド博士、私達は今から500年後の世界から、

時空間魔法でやって来たオコーネル大公家の末裔なのです。貴方がお書きになったこの本を見ていただきたくてやって来ました」


 私はイルド博士の机に彼の書いた回顧録を置いた。


「何と、信じられない!今私が書いているのがその回顧録ですぞ!その完成した本がここにあるなんて!」


 イルド博士は驚いて持って来た回顧録を手に取って叫び、回顧録を読みだした。

しばらく回顧録を読んでいたイルド博士だったが、

さっき通った部屋の扉を開けて「ハーシュ!お茶を3人分頼む!」と言って私達に座るよう勧めた。


「信じられませんが、今私が書いている英雄王リチャード1世の回顧録の完成版をお持ちの事を考えると、貴方方が500年前からいらっしゃったという事は本当の事なのでしょう。

 それで私に会いにいらっしゃった訳は?」


 そこへハーシュと呼ばれた若い男性がお茶の用意をして去った。


「私達は500年後に王家に断罪され処刑される事になるのです。

 博士が立ち会ったと言われたオコーネルの盟約によって、王家は未来永劫オコーネル家に害を成さないと決められているにも関わらずです。

 ですから私は王家が盟約を忘れているか、それとも破棄する気でいるのか確認したいのです」


「なんと!500年後にそんな事が!」


 リチャード1世は、東の大国パスカルがマルゲード王国に攻め込むという情報を掴んだ。

 マルゲード王国が進軍してパスカルに向かおうとすると、街道が整備されているオコーネル大公国を通って行くのが一番の近道だった。

 しかしマルゲード国とパスカル王国が戦えば、オコーネル大公国が主戦場になる可能性が高い。

 大軍を早くパスカルに移動させる為には、オコーネル大公国を通るのが一番だが、マルゲード軍を通したら、オコーネル公国の事もパスカルは敵と認定するだろう。

 そこで、リチャード1世とオコーネル大公は盟約を結んだ。

 


一つ、

 オコーネル大公国をマルゲード王国が編入して、オコーネル大公はマルゲード国の公爵になるものとする。



一つ、

 マルゲード国の王女をオコーネル公爵家に嫁がせ、マルゲード王家は未来永劫オコーネル公爵家に害を成さない。



 こうして結ばれた盟約によってリチャード1世は、まだ準備ができていなかったパスカル王国に素早く進軍し、勝利をおさめる事ができたのだ。

 それを足掛かりに英雄王リチャード1世は、東大陸を統一するのである。

 だがそれもリチャード1世亡き後、500年の間に随分領土を減らす事になるのだが…。


「しかし、オコーネル家に王女が降嫁した事実は無く、未来永劫害を成さないとの約束したにも関わらず、私達は理由も無く処刑されてしまうのです。

 これは重大な約束違反だと思われませんか?」


 イルド博士は、自分が立ち会って調印した盟約が守られていない事に驚いたようだった。


「オコーネル公爵様、それが本当ならお怒りになるのは当然でしょう。

 しかし5年前に崩御されたリチャード1世陛下は、心底友人であるオコーネル大公に感謝されていらっしゃいました。なぜそのような事になったのか…」


 そこで急に立ち上がったイルド博士は、ヘンリーが持って来た回顧録を手に取った。


「これを見た時に違和感を感じたのです。このリチャード1世の肖像画はリチャード1世のお姿では無い!

 これは…これは宰相のアドリック・プーインの姿にそっくりだ!」


 ヘンリーは不思議だった。

 リチャード1世はマルゲード地方の裕福な小国の王子として生まれたが、子供の頃は体が弱く、医療が進んでいたオコーネル公国に度々療養に訪れていたのだ。

 オコーネル公爵家のギャラリーに子供の頃のリチャード1世とオコーネル公国の公子の肖像画が残されている。

 そのリチャード1世の姿と回顧録にあるリチャード1世が違いすぎる。

 ヘンリーは、伝えられているリチャード1世が偽物なのでは?と疑った。

 だからリチャード1世をよく知るイルド博士に会いに行きたかったのである。


「宰相のプーインは肖像画を差し替えてどうするつもりなのでしょうか?」


「実は、リチャード1世陛下には2人のお子様がいらっしゃいます。

 お一人は王太子殿下のジョージ殿下。もう一人がイルーシャ王女殿下です。

リチャード1世陛下が崩御された5年前に、ジョージは12才。イルーシャ王女が11才でした。

 成人する18才にならないと王太子は国王に即位できません。

 ジョージ王太子殿下は、来年即位される予定なのですが、女性の成人は16才です。

 明後日16才になられる日にイルーシャ王女は、宰相の息子、48才のベントラーと結婚されるのが決まっているのです。

 そう考えると、もしかしたらプーインは王家を乗っ取るつもりなのかもしれません」


「えっ48才の男と16才の王女が結婚ですか?」


「そうです。ベントラーは子供が4人いる寡夫ですが、宰相の息子という立場を悪用して好き放題やっています。ジョージ王子が即位されるまでに自分の立場を不動な物にするつもりなのでしょう。

 それで王女殿下との結婚をごり押しするつもりなのです」


「それは酷い…。反対する者はいないのですか?」


「ジョージ王太子殿下も反対なさっておいでですが、リチャード1世陛下が亡き後、実際にこの国を動かしているのは宰相です。

 宰相と周りが推し進めている事に反対するのは難しいでしょう」


 ヘンリーは隣で聞いているステラマリンを見た。

ステラマリンも頷いて私を見ている。彼女も私と同じ考えのようだ。


「イルド博士、私達はイルーシャ王女を救いに行きたいと思います。どうやったら救い出せるか一緒に考えていただけませんか?」


 私達の次の行動の指針が決まった。



  イルーシャ王女殿下を救い出せ!だ。





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