ベントラーの奇襲
イルド博士の部屋で王太子殿下を守る策を練った私達は、それを説明する為に王太子殿下の部屋に向かった。
「殿下、これをご覧下さい」
私とイルド博士は、彼が作成途中の(リチャード1世の回顧録)と500年後から持って来た(リチャード1世の回顧録)物を並べて王太子殿下に見せた。
「このように私が今作成している回顧録の方は、リチャード1世に殿下の父君である陛下の肖像画が使われておりますが、オコーネル卿が持って来られた500年後の物は、なんと宰相の肖像画に差し替わっているのであります。
これがどういう事か考えますと、奴らは王太子殿下が即位される前に殿下を殺害し、王家を乗っ取るつもりだと思われます。
明日のイルーシャ王女とベントラーの結婚式を経て子供が生まれてたらその子を王位に付けるつもりでしょうが、イルーシャ様がオコーネル卿と500年後に去られたとしても、王太子殿下を殺害され宰相は国王になるでしょう。
そして権力を掌握した後はベントラーが王太子に据え前妻との間に息子がおりますから、その息子に王位を継がせる事が考えられます」
イルド博士の言葉を継いで私も説明した。
「宰相の陰謀を阻止する為には、王太子殿下が無事に18才の成人を迎えられて国王に即位され、宰相を権力の場から追い落とさなければなりません。
そこでご提案ですが、私も実は時空間魔法を使う事ができるのです。
といっても、魔力量が少ないので本を1冊過去に送るくらいしかできないのですが…。」
「卿も時空間魔法使いだったのか。それで私はどうすれば良いのだ」
「はい、殿下は日記を書く習慣をお持ちでしょうか?
毎日日記を書いて、朝、昼、晩の食事のメニューや体調。行動等をできるだけ詳しく記入していただきたいのです。
そして日記帳を王立図書館の王家の書庫に所蔵するよう計らってください。
殿下が書かれた日記を500年後に私が読んで、殿下の命に関わる事件があれば、私が未来から緑色の表紙の日記帳に対処法を書いて送ります。
殿下はそれを見て宰相が起こす暗殺を回避していただけたら、無事に戴冠式まで過ごせると存じます」
「なるほど、500年後から卿が回避策を授けてくれるのか。面白い!やってみよう!」
最大の懸案だった王太子殿下の命を救って正当な王家の血筋を繋げる方法が見つかり、私は安堵したのだった。
その夜、私とステラマリンは王太子殿下の部屋で
イルーシャ王女が最後の挨拶に訪れるのを待った。
正式な行事なので、たくさんの侍従や侍女、護衛が付き従って来ると言う。
私とステラマリンは王太子の寝室の書棚を動かすと現れる隠し部屋に案内されて、そこで待つように言われた。
しばらく経ってイルーシャ王女が訪れると、侍従と侍女だけが入室し、護衛が廊下の扉を守るよう命令された。
侍従の中に宰相の間者がいるらしいと侍女のフランが言っていたので、彼らの動きに注意しなければならない。
「お兄様、16年間私をお導きいただきありがとうございました!明日私は嫁ぎますが、どうかお兄様はお身体をお大事になさってくださいませ。
末長いマルゲード王国と王家の繁栄を願っております」
イルーシャ王女の感謝の言葉を述べた後、王太子が話し掛けようとした時だった。
「ベントラー様、ただいま王女殿下が王太子殿下に最後のご挨拶をなさっているとこでございます!
こちらに入室されるのはご遠慮下さい!」
「私とイルーシャ王女の結婚を阻止したい者達が王太子殿下の配下にいるらしいとの情報が入ったのだ!そこをどけっ!中に入れろ!
廊下で護衛と言い争うベントラーの声がした。
ベントラーは大勢の兵を連れて奇襲しに来たのだ。
「まずいな。ここまでか!イルーシャ、幸せになるんだよ!」
そう言うと王太子殿下は、手を挙げて合図を送った。
すると、いきなり窓のガラスが割れて部屋中が眩しい白い光に包まれた。
侍女達が「キャー!」と泣き叫ぶ声の中、ベントラーと兵達が部屋の中に押し入って来た時には、王太子の部屋は散乱したガラスで部屋は争いの後の様に荒らされていた。
窓際にいた侍従達は顔から血を流す者もおり、侍女達は恐ろしさに泣いたり震えていた。
そしてイルーシャ王女の姿だけが忽然と消えていたのであった。
「敵襲だ!窓を破られてイルーシャ王女が連れ去られた!皆イルーシャ王女を救い出せ!」
王太子を糾弾する為に押し入ったのに、敵襲だと対処に動く王太子の様子に、ベントラーも慌てて兵にイルーシャ王女を救出するように命じて部屋を出て行った。
イルーシャ王女はあの白い光の中、王太子殿下に手を引かれて隠し部屋に移動していた。
こういう事態が起こるのを予測していたのだ。
隠し部屋に揃ったヘンリーとステラマリン、それにイルーシャ王女の3人は、時空間魔法を使いその場からひっそりと姿を消したのだった。




