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第98話 乱闘

昨日は作者体調不良のため更新が出来ず、皆様をお待たせしてしまい大変申しわけありませんでした。

大広間は目も当てられぬほど酷い有様となっていた。砕けた硝子、床にぶちまけられた皿や料理、失神した賊らしき男達と、せめて邪魔にならぬようにと壁に寄りかかりじっと救援を待つ騎士。見るも無惨な光景に一瞬息を呑む。


1つ幸運だったのは、招待客の怪我人が想定よりも少なかったことだろう。




「(……それとも、重傷者はもう奥へと連れて行かれただけなのか)」





しかし残念ながら、それが正解なのか否かは現時点では判断することは出来ない。危険が及ばないところに避難できているのならば、それに越したことはないだろう。

そう結論づけ、湧いた疑問を頭の片隅に追いやり、ぐるりともう一度周囲を見渡す。


賊と騎士の人数は五分五分程度で、現在は何とか釣り合いが取れている状況だ。このまま防衛できれば万々歳だが油断は許されない。

じっと目を凝らすと交戦する人々の合間からちらちらと白い制服が踊る姿が見えた。


……グレン様だろうか? それとも他の団長?


確認したくもあったが、入り口から乱闘現場までの距離は遠い。無傷であそこまで辿り着く自信はないし、足手まといになりかねない。ここは我慢の時である。


まあぶっちゃけグレン様が負けるとは思ってない。なんて言ったって歴代最年少騎士だからね! この程度の乱闘で命を落とすほどやわじゃない。

そんな謎の自信が湧いてくるのと同時に、不意に嫌な疑問が脳裏を過る。




「(グレン様は確かに強いけれど……3年後、私が冤罪を着せられたあの時には、もう既に居なくなっていた)」




戦争で命を落としたのか、それよりも前に亡くなっているのか。はたまた団長の職を退いて居ただけなのか。考えたくもない話だが、考えなくてはならない話だ。




「(まあ、今考えることじゃないか)」




もし仮にグレン様が亡くなるとしても、それは今じゃない。以前と同じようにことが進むのであればこの乱闘で死者が出ることはないし、この場には優秀な回復魔法の使い手もいる。


今の私がやるべきことはなるべく足手まといにならぬよう行動しつつ、応急処置をして回ること! ついでに恩を売れたら万々歳! ……冗談だ。


今の私に出来ることは、怪我人を担いで避難することか、限りあるポーションを持って応急処置をして回るかの二択。

回復魔法が使えたらまた話も変わってくるのだろうけれど、残念ながら雷系魔法は壊滅的に回復に向いていない。

出来ることはといえば、体を麻痺させて痛みを感じさせぬようにするか、相手を消し炭にして物理的に痛みから救う位しか出来ない。1か100かしかないのだろうか。



通路の片隅にはいくつかの箱が積み上げられていた。王宮の使用人が支援のために用意してくれたのだろうか、箱の中には回復ポーションがぎっしり詰められていた。

ポーション瓶の底には達筆な筆跡で“初級”という二文字が綴られている。


初級ポーションには風邪や擦り傷、捻挫や軽度の骨折を治す程度の効力が秘められている。ただし初級ポーションは傷を塞いでくれるだけだ。

流してしまった血は戻らないし、何より急激に癒す反動で体への負担が大きい。

中級以上のポーションか、もしくは回復魔法であればその反動も抑えられるのだが、初級ポーションだとそうはいかない。赤子や幼子、高齢者や重傷者の治療に、ポーションではなく魔法が使われがちなのは、そういった側面があるからだった。


確認した限り広間に居る怪我人達の多くが青年、もしくは中年の人ばかりだったのでひとまずはこのポーションで何とかなるだろう。


ポーション瓶の詰められた箱を抱え、最も出入り口から遠い場所に蹲っていた中年の夫婦へ駆け寄る。

私の姿に気がついた男は目を見開くと苦しげな声で言葉を紡いだ。




「私は構わないから妻の方を先に頼む。私は足を捻っただけなのだが、妻は飛んできたナイフが腰に……」




言われるとおり奥方の背を確認すると、ドレスに赤く血が滲んでいるのがわかった。

手近に転がっていた、凶器となったらしいナイフを拾い上げ、慎重にドレスを裂く。分厚いコルセットが身を守ってくれていたのか、血痕ほど酷い怪我ではないようだった。これならば初級ポーションで何とかなるだろう。

コルセットの紐を緩め、傷口にポーション液を注ぐ。意識を失った奥方は小さく呻き声を上げ、うっすらと目を開いた。




「傷口はポーションで塞ぎましたが失血量や毒物の有無が心配です。避難した後はすぐに王宮の魔導師様方を頼って下さい」



「ごめんなさい……ありがとうね」




今度は旦那さんの治療に取りかかる。本人曰く怪我は捻挫のみだと言うが、興奮状態で痛みを感じていない可能性も考えられるので慎重に確認していく。

あらかた確認したが、確かに他の外傷は見受けられなかったのでポーションをお渡しした。

コルク栓を開け、中身を一息に飲み込む。

ポーションの使用方法は患部に直接塗る方法と経口摂取の2パターンがある。

切り傷ならば患部に塗る方が早期回復に繋がるが、風邪や捻挫などと言った内部の怪我は経口摂取の方が良いのだとか。

ただし、ポーションは苦い。とにかく苦い。

中級、上級とランクが上がるにつれて苦さも倍増するが初級ポーションだって侮れない不味さである。


当の旦那さんも顔を顰めたがその後なんとか立ち上がり、奥方を支えながら避難していった。


よしよし、何とか一組目の治療が完了。

しかしゆっくりはしていられない。怪我人は今も増え続けているのだから。


箱を抱え次の患者の元へ走り出る。

意識を失った若い女性騎士の前に屈み込むと、不意に視界に陰が降りた。




「セレナ様、手伝いますわ」



「アルナ様! どうしてここに……」




髪を乱しながらも真剣な表情で騎士と向かい合うアルナ様は私の言葉ににこりと微笑んだ。

手袋をぽいっと床に投げ捨て、血の跡の残るその左腕を取り上げる。




「まだ乱闘が続いています。ここは他の者に任せてどうか中へ……」



「いいえ、それは出来かねますわ。メープル伯爵家は、建国時に初代国王陛下のお側で回復魔導師として控えていた一族。これまでに優秀な水魔法の使い手を何人も輩出して参りました名家ですわ。光魔法には遠く及びませんが、何十年何百年と磨き続けた水系回復魔法を出し惜しみしていては、ご先祖様達にめきょめきょにされてしまいますわ」



「めきょめきょ……」



「はい。めきょめきょのけちょんけちょんです。先ほど殿下にお願いして結界を一時的に解いていただきましたから、お力になれると思いますわ。それにソフィア様にお願いして、回復魔法の使える人を呼んで貰いましたから直に救援がまいります」




そう言いながらもアルナ様の腕は止まらない。

手早く、しかし丁寧に患部を確認し水系の回復魔法でいやしていく姿は熟練の魔導師も顔負けするほどだった。

「さぁ、お早く」というアルナ様の声に我に返り、私は他の患者の元へと走る。



どれくらいの時間が過ぎただろうか、怪我人の姿が少なくなってきたことに安堵していたその瞬間だった。

前方より白い何かが凄まじい衝撃音と共に壁にぶつかった。



白い何か──まさか団長なのでは?



そんな嫌な予感に駆られ音の聞こえた方へと視線を向ける。

そこに居たのは団長──ではなく、白い法衣を纏ったエレメンティス教の神父だった。神に従う物の象徴とも言われるその純白のローブに赤く血が広がっていく。




「大丈夫ですかっ!?」




飛ばされてきた老神父ははくはくと口を動かすものの声が零れることはない。法衣をはだけさせるまでもない、見るからに重症だった。

後ろから駆け寄ったアルナ様が震える声で呟く。




「ひとまず治療をしますけれど、これほどの怪我は水系魔法では……」




早く光系魔法の使える誰かを呼ばなくては。

老神父をアルナ様に任せ、逸る心臓を抑えながら避難所へと向かうため大広間から廊下へ駆け込む。

そうして私は再び目を見開くこととなった。




「あっ、セレナ様! ソフィアただ今帰還しました! ……ところでルキアくんと“コレ”しかいなかったんですけれど大丈夫ですかね?」



「なんでよ! 私一般人なのに! か弱き貴族令嬢なのに! 邪魔にならないように避難したのに連れ戻されるだなんてあんまりよ!」



「ソフィア、頼む、降ろしてくれ……恥ずかしい……」




そこに仁王立ちしていたのは、目隠しされた上で今もなお暴れるルーナと、縮こまるルキア様を軽々と担いだソフィアという、カオスの具現体であった。


いつもお世話になっております、花嵐です。

大変勝手ながら作者体調不良のため『逆行悪役令嬢はただ今求婚中』の3月14日の更新をお休みさせていただきたく思います。

楽しみにして下さっていた方、ご報告が遅れてしまい大変申し訳ありません。

どうぞよろしくお願いします。

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