第8話 赤面
主人公視点に戻ります。
「(……マズい、マズいわ)」
ガタガタと揺れる馬車の中で、私はまさに放心状態に陥っていた。
そう、セレナ・アーシェンハイドは窮地に追いやられていたのた。
──王太子の婚約話からは回避したものの、今度はブライアント様に目を付けられてしまった。
いや、最初に目を付けたのは私だけどね!
まさか、本気にされるとはつゆほども思っていなかったのだ。
自分で言うのもあれだが、12歳の戯言でしょう……?と。
もうちょっと若ければまだ「お父様と結婚する~」が通用する歳だし、12歳といえば何かと多感な時期。
それを狙っての発言だったはずなんだけど──
「(いや、でも確かに……)」
数日間にわたって求婚し続けたら、相手が本気になるのも……仕方がない!?
落ち着け、落ち着くのよセレナ。
こういうときは、逆に考えてみることにする。逆に、私がブライアント様の立場で、お会いする度に求婚されていたとしたら──
想像しただけで、ぼんっ! と音を立てて顔が赤くなった。
これは、仕方がないわ。私だってきっと惚れてしまうもの……!
「セレナ? お前帰ってきてから様子がおかしいよ……いや、様子がおかしいのは数日前からだけど」
いつまでも挙動不審な私に、兄がおずおずと話しかけた。そんな兄に「大丈夫ですわ」と微笑みかけ、私はまた思考の海に浸かる。
こんな私でも、誉れ高きアーシェンハイド家の一員。
己の発言には責任をとり──あの方が望まれるのならば、必ずや幸せにする! それはもちろん、覚悟の元だけれども……。
「(今思うと、なんだか恥ずかしい……!)」
目前の危機を逃れた余裕からか、逆行してからの自分の行動を振り返ると凄く恥ずかしい!
手近にあったクッションに顔を埋めて精神統一を図る。このふかふかのクッション……結構良いな。
一旦落ち着いて状況を整理してみる。
まず、私が回避しなくてはならないのは王太子の婚約者になることと、義妹に冤罪を着せられること。
前者は恐らく今回の一件でもう手出しは出来ない。これは一安心だ。
後者は当事者たる本人が現れていないのでどうしようもない。
そして新しく出来た問題──ブライアント様の件。
貴族令嬢たるもの、歳離れた御方と結ばれることや意に沿わぬ方と添い遂げることにも覚悟出来ている。もちろん、王太子は別だけど!
けれど、ブライアント様の方はお好きな方がいるかもしれないし────
「(……あれ?)」
そこで私はふと気がついた。
ブライアント様は求婚するチャンスが欲しいと言っていた。一般的な常識で考えると、この発言をする人に恋人などの好いた御方はいないと思われる。
いや……でも、王太子のようなとんでもない奴らがいるから、あながちそうとは言い切れないけど。
1つ懸念点を上げるとすれば、私が嘘を吐いて求婚している点もあるが、そういう特殊枠を考慮せず、ブライアント様がこの婚約に乗り気だとするならば……?
「(もしかしてこれ……問題、ない?)」
──ブライアント邸に呼ばれるまで、あと2週間。
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