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第75話 嫉妬

連日更新が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした……。

その後も幾つかの応酬が続いた。

やましいことはさらさらないのでサクッと答えることができた……が、ただ1つ、困った質問があった。

それは「今日はどうしてここに来たのか」というもの。


当然、最初にしていた浮気現場の覗きってのは使えないわけで。そうなると他の言い訳を用意しなくてはいけないのだけれども、これが案外難しい。

しかもあまり時間はかけられない。どうしてここに来たのかを答えられないのって、我ながら怪しさが満点過ぎる!


ひとまずお茶を啜って時間を稼ぐ。余裕たっぷりの令嬢スマイルを貼り付けているものの、内心は大慌てだ。



窮地に追いやられた私が何とか捻り出したのは「お父様のお仕事に興味があって……?」と言う、これまた何とも苦しい言い訳だった。

我ながら「いやお前……騎士になるために附属に来たのでは……?」とツッコミを入れたいところだ。


幸いなことに深く追求されることはなかったけれども、私の発言にグレン様は一瞬顔を歪めた。

え、もしかして嫌!? 駄目ですかね!? 解釈違い的な……?


正直その辺りを確認したいところだが、深掘りを避けるためには沈黙は必須事項。私は黙らざるを得なかった。

なお、後ろのお父様は満面の笑みだった。父親としては、自分の職業に対して子供が興味を持ってくれるのは嬉しいのかもしれない。

うーん、それはそれで善意を踏みにじっているようで後味が悪い……。




「──グレン、ちょっといいか?」




取り調べに片が付いた頃、不意に、仕切りの向こうからヴォルク団長が顔をのぞかせた。その手には白いハンカチが握られている。

シンプルなハンカチのその隅には『N.A.』の文字が刺繍されていた。


うーん『N.A.』……? ああ、ネロ・アルテミスか!


ヴォルク団長が持ってきたハンカチの中には何かが入っているようで、不自然にたわんだそれを彼は丁寧な手つき長机置いてみせる。

白い手袋をはめたヴォルク団長の手によって、ハンカチが開かれた。




「ブローチ型の魔法具、ですか」



「逃走した犯人の証拠品だそうだ。核である魔石は破壊済みだが、回路はまだ残っているから王宮魔導師団に頼めば解析可能だろうな。……それよりも、これだ」




ヴォルク団長が、魔石が砕けて回路があらわになったブローチをひっくり返した。

銀の台座の裏側には、大きな鳥が羽を開いて弧を描き、中央部には薔薇の花の描かれた盾の印された──“教会”の紋章が刻印されていた。




「“教会”ですか……これはまた面倒なことになりましたね」




“教会”とは、ヴィレーリア含め大陸中で信仰されているエレメンティス教の通称だ。

本部は神聖エレメンティス公国にあり、9種類ある魔法属性をそれぞれ司る9名の神を信仰している。魔法は彼らから与えられた神聖な物であると信じており……とまあその辺りの教義はとりあえず置いておいて。


大陸中で信仰されているために、教会の影響力は絶大。国の政治に口出しできるほどであり、加えて神聖エレメンティス公国では信者で形成された軍をも有している。

敵に回せば厄介なことこの上ない存在なのだが……何故、その教会の紋章が入ったブローチをアーチが?



私が首を捻っている間にヴォルク団長が語った推測はこうだ。

まず1つ目、アーチは教会からの間者であると言う場合。

ただし、教会がヴィレーリアの外交官を狙う理由が分からないし、わざわざこんなわかりやすく証拠を残すだろうか? と言う疑問も残る。


2つ目は、ブラフ──自分は教会の間者だと思い込ませようとしている場合。

ヴィレーリア内でも、教会のバザーなどを通じて教会の紋章の入った物が出回っているのは確か。

なんとなくこっちの方がしっくりくるが、1つ目のパターンも否めないのが現実。

他国ならまだしも何故わざわざ教会の? と言う疑問も残る。

対立を煽りたいなら、別に他の国の物でも良かったじゃん? みたいな。




「教会が後ろにいるというのは考えたくはないが、ない話ではないだろうな。もちろんブラフの可能性も多いにある。むしろそっちの方が楽だな……」



「どちらにせよ上に報告ですね。このブローチがどの国で作られた物かが分かれば、もう少し調査が楽になるでしょうし……侯爵は何かそういった動きはご存知でしょうか?」



「いや、何も。むしろヴィレーリアと公国の関係はかつてないほどだよ。例え教会が政治に干渉してくることはあっても、わざわざ外交官に干渉してくる理由が……」




グレン様とヴォルク団長、そしてお父様の応酬を聞きつつも私は物思いに耽っていた。


教会……教会ねぇ?

逆行前に何か教会関連の話題があっただろうか、と記憶を辿るのだが心当たりが全くと言って良いほどない。

ルーナ関連のいざこざも教会はノータッチだったような。

まあいくら優秀な光属性魔法使いでも、友好国の侯爵家の養子の事なんて気にしないか。いくら光属性が稀少でも、教義的にはどの属性も素晴らしいと言った風潮なので特段特別扱いはなかったはずだ……多分。

戦争にも、公国として軍は送ったようだったけれども……


そこまで思考を巡らせたところで、つんつんとネロに肩をつつかれた。その感覚で私は現実世界へと引き戻される。




「な、なぁ……本当に体調は大丈夫なのか?」





肩口から、不安そうな声色でそう囁かれる。

もう、ネロは心配性だな!

痺れもないし、感覚にも特に異常はない。心拍数だって正常だ。


けろっとした表情の私に痺れを切らしてか、ネロがこちらに手を伸ばした──が、しかし。その手が私に届くことはなかった。

代わりに目の前にはグレン様の手が翳されている。




「なに、団長サン? 痛いんだけど……離してくれない?」



「そちらこそ、人の婚約者にベタベタ触らないでいただけますか? 第一、貴方方は距離が近いんですよ」




その言葉と共にひょいっと私の体が後ろ──グレン様側へと引き寄せられた。

両者が笑顔を浮かべる中、ぴり、と刺すような緊迫した空気が漂っている。




「へぇ、随分な独占欲だな。同級生が心配して触るのも嫌なのか? 例え獣人の習性だとしても、あんまりキツい束縛は嫌われると思うんだけど。良かったな、セレナの心が広くて」



「はは、今まで我慢してきた方だと思いますけれどね。けれど“私の”婚約者殿は、よくよく言って聞かせて行動してみせないと満足できないそうなので……ね?」




も、もしかして。いや、高望みというか勘違いかもしれないけれど!

もしかするともしかして……グレン様嫉妬してくれてる!?


ニヤけた口元を慌てて手で覆う。幸いにも2人は互いに睨み合ってるので、私の醜態には気づいてないと信じることにしよう。

お父様やヴォルク団長、それと暫くずっと空気だったクラリスにはがっつり目撃されていたけれども!



王太子は私がどこで何をしてようか全く興味がなかったので、初めての経験かもしれない。

なんだこれ、グレン様めっちゃ可愛いな……? 嬉しいって言うとなんだか、性格が悪いような気がするけど。


私がグレン様の腕の中で必死に悶える気持ちを押し殺す中、残り3人もまた三者三様の反応をしていた。




「あ、あの……おじ様は参戦しなくていいのですか? その、浮気相手なんですよね?」



「お嬢さん、そこは深掘りしなくていい。これ以上傷を抉らないでくれ」



「……なあ、俺帰ってもいい?」

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