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第49話 合否

本日より第二部、15歳編が始まります。

─よく晴れたその日、アーシェンハイド侯爵家に一通の茶封筒が届いた。つい先ほど届いたという茶封筒の右下には“ヴィレーリア王国騎士団附属アルカジア学院”と無機質な筆跡で綴られている。


附属の受験を終え通達を待つこと約一か月。遂にこの日が来てしまった。門からここまで届けてくれた門番からその茶封筒を受け取る。


開封のため私の自室に集まったのは、お兄様やお父様、それにノーラやメルを始めとしたメイド達やマルトーなどの執事達、その他使用人大勢。部屋に入りきらなかった使用人達の戸口越しからの視線が痛い。ちなみにお母様は教員として一応結果を知っているので今回は席を外している。



こんな大人数の前で開封する──ましてやこの合否で私の生死が決まると思うと、緊張のあまり手が震える。




「い、いきますわよ……?」



「……ああ」



「セレナなら大丈夫だ、さあ開けよう」




ペーパーナイフで封を切る。中を見ると数枚の紙がそこに鎮座していた。厚紙が1枚と、普通の紙が数枚。お母様が言うには、この厚紙こそが合否を告げる書類なのだそう。

そうして取り出した厚紙に記されていた文字は──




「……合、格っ!」





***




そんなやりとりをしてから早一か月が経過した。やはり途中で実技から筆記に力の入れ方を変えたのが功を奏したらしく、無事に附属への入学が決まった。

筆記は勉強の甲斐もあって学年では最高得点、しかし実技は目も当てられない点数だった。ああ、口にしたくもない……。筆記・実技の総合点が下から3番目という危ない橋を渡ったが、入学できたので良しとしよう。


附属云々の話から離れるが、王太子とルーナ対策の効果は上々だった。ディア子爵夫妻はご存命でルーナはまだ子爵令嬢だし、王太子からの過干渉は特にはない。至って平和な日々を過ごせている。



さて、話題を戻そう。一か月前のあの日附属より合格通知が届いたのは私だけではなかった。例えばグレン様の弟君──ルキア様や、アルテミス家に引き取られて元気に過ごしていたらしいネロ、そして前回では学院の騎士科に通っていたはずのソフィアが合格したという知らせを聞いた。

ルキア様やネロは別として、ソフィアが附属を受験しているというのは初耳だった。どういった心変わりなのか物凄く気になるところだが、今回の軸で1度も騎士科に行くという話がレスカーティア家で出ていない可能性があるので迂闊には聞けない。ここはぐっと我慢することにする。墓穴を掘るのが目に見えてるからね……。





仕立てた附属の制服も数日前に届き、入学式を3日後に控えた今朝。今日は正午頃から騎士団の叙任式が執り行われる手筈となっていた。今年度から騎士団に入隊した者達、もしくは一般団員から副団長やはたまた副団長から団長へと昇格する騎士達が本日の主役だ。しかし誰が昇格するのか、などと言った話はトップシークレットであり、本人達でさえ当日知らされるのだとか。


本来一般人は立ち入り禁止の行事だが、今年度附属に入学する私達や教員達、附属に通う学生達──通称“候補生”達の参加は認められている。


そんなおめでたい日だというのに、今日も今日とてメルは目元を赤く腫らしていた。




「め、メル? 大丈夫?」



「ずびまぜん……! あと3日でお嬢様とお別れだと思うと涙が……」




学院はそれぞれの自宅から通うが、附属は完全寮制である。自宅に帰ることが許されるのは長期休暇期間中のみで、加えて使用人や側仕えが同行することもないので暫くの間はメルやお父様達とはお別れとなるのだ。といってもまあ三か月毎に休暇が設けられているから、そんなに泣くほどの事でもないと思うのだけれど……。

あまりにも悲しげな様子だったので、エプロンドレスのポケットにそっと秘蔵のキャンディをねじ込ませておいた。




届いたばかりの真新しい制服に袖を通すと背筋がシャンと伸びるような心地になる。騎士団の制服にどことなく似通った附属の学生服。黒を基調としたシックなデザインではありつつも、袖や襟などを始めとした要所要所にデザイナーのこだわりが見える一品。学院と違って附属の制服は男女兼用で、採寸をしたときから似合うかどうか不安だったけれど、思ったよりは悪くはない。これが制服効果ってやつだろうか……?


ここ数年間で背も伸びて、原因は定かではないがついに18だった頃の私の身長を上回ってしまった。まあ大方、鍛練と食生活のお陰だと思うけど……。お陰でデビュタント用のドレスは仕立て直しとなった。 




「やはりよくお似合いです、お嬢様。若かりし頃のセリア様によく似ていらっしゃいます」



「……そうかしら?」




そう言われても、実感はあまりない。親子だから多少は似ているだろうけれど、その程度だ。

うん、でもまあ学生時代は他の令嬢達からの黄色い歓声を浴びて育ってきた──という伝説を持つお母様に似ているというのだから、褒め言葉として受け取っておこう!

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