第45話 計画
昨日は作者体調不良のため急遽更新をお休みさせていただいておりました。大変申し訳ございませんでした。
私は必死に言い訳を考えていた。……やっぱり、一貴族令嬢が馬車を贈るってどんな展開だよ!?流石の私もこれは経験のないパターンなので上手い言い訳が思いつかない。なので、事実をオブラートに包んで伝えることにしてみた。
「……壊れそうだったから……?」
「まあ、お前にも何か考えがあるのだろうな。さっぱり理解は出来ないが」
苦し紛れの言い訳に、お兄様は何を感じ取ったのか一応は納得してくれたらしい。なんだか婉曲に受け取られてしまったけれど。最近お兄様が私に向ける視線が、珍獣を見つめるような物である事には気がつきたくなかった。
いや、私も今回ばかりは変なことを言っている自覚がありますけどね、はい……。
「じゃあ、春の感謝祭を利用すればいいんじゃないか?」
春の感謝祭は、冬の間長い眠りについていた花の女神ハルミア──豊穣の神の姉妹神が、眠っている間に彼女を守護していた眷属達に感謝を込めて贈り物をしたという神話に基づく行事だ。家族や親戚で集まり、それぞれ贈り物を贈り合う。地域にもよるが、我が家では全ての贈り物を集めてそれぞれに番号を振りメイド達でくじを引いて配るというのが慣例だ。
「でも、春の感謝祭の贈り物は成人になってからするのが普通ですわ。それにあれはくじ引きですし……」
「私名義で出せばいい。もちろん、去年かかった費用と同額の金はカンパしよう。我が家で用意するくじだからな、いくらでも工作が出来る──まさか、そんな汚いことは出来ませんわ! ……なんて言わないよな?」
うーん、それならばギリいけるかもしれない……?大抵贈り物は工芸品だとか宝飾品だとかがメジャーだけれども、変わり者と名高いお兄様なら馬車を用意しても特段疑われるようなことはないだろう。
まあ失敗しても恥をかくのはお兄様だし、あまり気にしなくて良いか。良くはないけど。
とりあえず馬車を渡す手段は調った。次は金策だ。私は散財するタイプでもないのでお小遣いは着々と貯まってきているが、何せ購入するのは馬車である。しかも貴族用の!
オーダーメイドではなく既製品を買うつもりではあるけど、大きな買い物となるのは間違いない。果たして手持ちだけで足りるだろうか。
うーむ、と唸り声を上げながら悩んでいる間に、お兄様はローテーブルの上に散乱した紙を一纏めにし、紅茶を淹れてくれた。
ほかほかと暖かい湯気を感じると緊張がほぐれていく。
……やっぱり私が稼げることといったらあの魔法具くらいだよなぁ。でも大量生産して販売するのは現実的ではないし。
私が淹れられた紅茶を一口啜っている間に、お兄様がそれらの書類を片付けようとして──私は待ったをかけた。
「……お兄様さえよろしければ、その設計図を宮廷魔導師団に“お渡し”したいのですけれど」
“お渡し”とは名ばかりで、要は設計図を売るということである。割とよくある話なのでやってみないとわからないが問題なく出来るだろう。
1度渡したものを返せと言うのは非常に心苦しいが、王宮魔導師団に設計図が渡れば、お兄様は仕事と称して堂々とこの研究に没頭できるようになるので悪い話ではないはず。……なんだけれども、どうかな? ちょっと無理があるだろうか。
しかしお兄様も私の発言の意図を正確に読み取って、ニヤリと不敵に笑った。
「……なるほど? まあお前のものだしな、お前が好きにすれば良い。……ああそうだ、良ければ私が交渉しようか?」
「よろしいのですか?」
仮にもお兄様の職場だよね? いいのか、それで?
批判めいた視線を向けてみるが、そんなことには気にもせずにお兄様はちょっぴり黒い笑顔を浮かべた。
「安心しろ、しっかり搾り取ってくるから。……だから、母上には告げ口するなよ」
「……最大限の努力はいたしますわ」
兄の最大の懸念事項はそれらしい。
このノリだと研究が始まって徹夜してお母様にバレるルートが容易に想像できるから、今告げ口しなくても……と思わなくもない。けれどお兄様のこの積極性を今は削ぎたくないので、私は沈黙を決め込んだ。
「それでは、私はこれで失礼いたしますわ」
今日の午後からは春の感謝祭に向けてドレスを1着作ろうという話が出ていたので、その採寸に向かわなくてはいけない。
まあ春の感謝祭も一族の集まりに過ぎないのでグレン様もルイーズ達も来られない。なので、あまり張り切ったものではなく普通のドレスで良いよねと思ったり思わなかったり。
席を立ち退出しようとした私をお兄様は、拳を作りながら「ああ、期待していてくれ」と見送った。




