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第41話 露店

グレン様と手を繋ぎ屋台を見て回っている途中で、私は見覚えのある屋台を見つけるなり足を止めた。店頭に立つ中年女性を見て、確信する。


──うん、たぶん目的の店はここだ!


グレン様に目配せすると僅かに頷いてそちらに進路を変えてくれる。よく通る声で客引きをするおばさまに私は話しかけた。




「あの、おばさま。この花飾りとお茶と……あと、爪紅を下さい」



「あいよ! 全部で銅貨26枚さ!」




あらかじめ崩しておいた銅貨を取り出し手渡す。

今日はお父様から軍資金──お小遣いを貰っているのだ!

一応貴族のお小遣いなので、平民の暮らす城下町で遊ぶには半額でも有り余るほどの額だったりする。流石に全額を持ち歩くのは恐ろしかったので半分ほど持ってきているが、私の懐は十分ほかほかだ。


私の頼んだ商品を隣に立っていた少年が紙袋に包んで手渡してくれる。

「またきてね!」と満面の笑みで手を振るその屋台を後にすると、この一連のやりとりを静かに見ていたグレン様が驚いたように口を開いた。




「──随分と手慣れていらっしゃいますね」



「そうでしょうか?」




貴族令嬢は──というよりは貴族の子供は基本金銭のやりとりなどしないから、言われてみれば確かにそうかもしれない。あんまり気にしたことはなかったけれど……。


グレン様は「お持ちいたします」と声をかけてくれたけれど、流石にそこまで甘えられないので丁重にお断りした。どうせ大した重さじゃないしね!




「──グレン様は花祭りに来たことがありますか?」



「領内の祭りは何度か経験がありますが、王都の花祭りに参加したのは初めてですね。いつもは警備に駆り出されていましたので」




なるほど、じゃあ私も頑張って案内せねば……! そう思うと俄然やる気が出てきた。



人の流れに沿って歩いていると、不意にグレン様の視線がとある屋台に向いた。グレン様の視線を辿ると、そこは魔法具などを扱う小さな露店だった。


表通りから見える限り、店内には所狭しと言わんばかりに古ぼけた魔法具や屑魔法石を集めた瓶、乾燥させた調合用の薬草やポーションが並べられている。一見するとおどろおどろしい雰囲気だが、日の差し方のせいか不思議と落ち着いた雰囲気を醸し出していた。



そんな店ではあるが、怪しいところはほとんどない。何か気になる物でもあったのだろうかと首をひねる。




「グレン様?」




私が呼びかけるとグレン様ははっとした表情で振り返る。そうして少し躊躇った後、少しだけ声を潜めて語った。




「学生時代の旧友の実家なのです。事情がありまして、彼は騎士にはならず商人になったのですが──少し、寄ってもよろしいですか?」



「もちろん!」




なんという偶然だろうか。そういう縁は大事にした方が良いと思う。それに、グレン様の旧友──見てみたい! 店内にいるかどうかはわからないけども。


店内に足を踏み入れるとちょうど休憩をしていたらしき店番の青年が目を大きく見開いた。驚きのあまり手に持っていたパンを落としかけ、すんでの所で再びキャッチする。




「グレン! 久しぶりだな! ……っと、そちらのお嬢さんは?」



「デレク、久しぶりですね。元気そうで何よりです。彼女は私の婚約者です」




感動の再会と言わんばかりに、デレクと呼ばれた青年がカウンター席から飛び出してくる。




「セレナ・アーシェンハイドと申します、ご機嫌ようデレク様」



「本物のお嬢様じゃないか。凄いな、グレン! ……でも、花祭り当日にこんなしけた店に連れてくるのはよくねぇな! どうせ連れて行くなら時計塔とか、花の鐘の丘にすれば良いのに」




時計塔や花の鐘の丘は王都内屈指のデートスポットだ。この辺りからでも歩いて行ける距離にあったはず。


──うん、それじゃあ挨拶もすませたことだし、とりあえず邪魔者は隅の方に居ようかな。




「いえいえ、とても落ち着いていて素敵なお店ですもの。店内を見て回ってもよろしいですか?」



「そりゃ、勿論! グレンの婚約者様なら商品もお安くしますよ!」




随分とフレンドリーな商人だ。人の良さを利用されて大損をしないか心配になるレベルである。他にも店員はいるようだし、多分大丈夫だとは思うけれども……!



私は二人に一礼した後、隅の方へと移動した。

棚には至る所に魔法具が置いてある。見たことがある定番の物から、使用用途がさっぱりわからない物まで目白押しだ。値札の隅に書いてあるのは恐らく制作者の名前の様で、観察しているうちに各制作者ごとにまとめて陳列されていることがわかる。




「(……あ、これとかお兄様へのお土産にいいんじゃないかな)」




物珍しさにじっと見つめていると、視界の隅に、ガラガラだった店内に誰かが入ってくる姿が映る。ふっと顔を上げると、そこに立っていたのは目深にフードを被った二十代くらいの男性だった。

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