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第40話 手を

“花祭り”──それはこの国に古くから伝わる神話に登場する、豊穣の女神アルミラの伝承に基づいた豊穣祭の別称である。


ヴィレーリアの国花ダリアが同じ時期に見頃を迎えるためその名称がついたとされており、毎年多くの人がこの日を祝う。町人は家や店を花で飾り屋台を出し、農民は収穫した作物の一部を教会に納めた後に祝宴、そして貴族はお忍びで城下町に降りるのが慣例だ。


基本屋敷か貴族街か、いけても領内で過ごす貴族令嬢にとって、城下町という新しい場所を散策することが出来るこの花祭りは一大イベントだ。貴族街と比べて城下町は治安が良いとは言えないが、当日は多くの騎士が巡回しているし、大通りだったら危険も少ない。私達もその例に漏れず城下町を散策する予定だった。




「先ほどの魔法具の原理はどうなっているのですか?」




アーシェンハイド邸から城下町までの移動中、馬車内でグレン様がそう訊ねた。



今日のグレン様はひと味違う。

今までは騎士団の制服姿ばかり見てきたが、今日はお忍び散策と言うことで、平民の富裕層に扮した私服を着ていらっしゃるのだ!


貴族だし浮いてしまうかも?と言う私の懸念は秒速で消し去られた。



似合う、超似合ってる。騎士団の制服姿と交互に毎日みたい。



美形は何を着ても美形と言うことが証明されてしまった。当然私も平民のワンピースを纏っているが、グレン様のギャップは比べものにならない。




「本物の花と、事前に用意していたその飴を魔法具を起点に入れ替えたのです。手品みたいで面白いでしょう?」




凄く大雑把に説明すると、入れ替えたい二つのものを用意してそれぞれに魔法具のリボンを結び、片方に魔力を入れて魔法具を起動させると、もう片方のリボンが結んである物と入れ替えることが出来る──という物。


これだけ聞くと物凄い万能魔法具に聞こえるが、重量は花一輪が限界で本一冊も運べないし、魔力は効果の割にはごっそり持って行かれるので使い勝手が悪い。あと使い捨てのため多用も出来ないし、開発工程も面倒臭い。


ちなみにこれは、王太子に塩対応されてやさぐれていた時期にお兄様を巻き込んで作ったものだ。王太子に見せたら「使い勝手が悪いし実戦向きじゃない」とディスられたことも記憶に新しい。本当にあの王太子最低だよな。実戦って何に使う気だったんだよ、爆弾でも入れ替えるつもりだったのか?


設計図はお兄様に横流ししたので大いに役立ててくれることだろう。けっ、指をくわえて見てろよ前回の王太子め!




そうこうしているうちに私達を乗せた馬車は城下町へと入っていった。





***





「らっしゃーい! 桃に林檎、今朝収穫したばかりの新鮮な果物だよ!」



「さあさあそこのお兄さん、思い出づくりに花飾りはどうだい!」




澄み切った快晴の元、城下町は気を抜けばはぐれてしまいそうな程の賑わいに満ちていた。

表通りに出された屋台や建物は花や飾りで彩られ、多くの人が行き来している。人々は露天から顔を出し威勢良く声を掛け合う。



そうそう、これこれ! この感じ懐かしい!



騒がしいのは苦手という令嬢もいるが、私は祭りには祭られとけタイプの令嬢なので凄く胸が躍って仕方がない。



農耕の盛んなヴィレーリアにとって、実りの季節と豊穣を祝うこの祭りは重要な日だ。故に他の祭りと比べて、国民の気合いの入りようが段違いなのである。




「(──果実飴に、屑宝石の革紐に、爪紅も!)」




記憶を遡り、お気に入りの商品を思い出す。必ず手に入れて帰らねば……!


気合いを入れて拳を作ると、不意に後ろから衝撃が走った。




「──おっと、ごめんよお嬢ちゃん」




どうやら後ろから歩いてきた中年紳士とぶつかってしまったらしい。一度ぶつかっただけでもグレン様と随分距離が離れてしまった。慌てて戻ろうと一歩を踏み出すものの、私の体はあれよあれよと言う間に人の流れに押されていく。



──やばい、はぐれるっ! この年で2度目の迷子とか本当に笑えないわ……!



あわや2度目の迷子かというところでグレン様の手を掴み、九死に一生を得た。

あ、あぶねぇ……!




「よろしければ、手を繋ぎましょうか」



「お願いしますわ……!」




まさか逆行した弊害がこんな所に出るなんて露にも思わなかった。

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