第34話 研究棟
もはや婚約者時代よりも訪れているのでは……? と思うほど最近何かと呼び出されがちな王宮。
今日はお兄様の謎のリクエストのサンドイッチも一緒だ。
なんだかよくわからないけれどお兄様のあの態度にはちょっぴり腹が立ったので、1つだけ激辛サンドイッチを混ぜておいた。
いつものように裏門を通過しようとすると、いつもの門番のおじさまが見送ってくれた。
お兄様の勤める王宮魔導師団の研究棟の戸を叩くとそう待たずに入室の許可が下りる。
その扉を開くと、室内の中央にお兄様とロベリア様が立っていた。
「お、来た来た。道中何もなかったか?」
「久しぶりだな、妹ちゃん。色々大変だったと聞いたけれど……?」
「ええ、無事ですわ。お久しぶりです、ロベリア様。ご心配をおかけいたしましたわ。私はこの通り元気ですわ!」
「うんうん、それは良かった」
久しぶりに対面したロベリア様は、相変わらずお元気そうでほっとする。
──相変わらず……って言うかむしろ前より生き生きしてる?
サンダードラゴンの一件の時は戦闘時だったから疲弊していたのは当然なんだけれど、前回でお会いしたときよりも溌剌としていらっしゃるような……?
それに、ロベリア様はどうしてここにいらっしゃるのだろうか。偶然……ではないだろうし?
そんな私の疑問は、ロベリア様の言葉が解決してくれた。
「すまないね。セベクが君を呼び出したこととはまた別件で、今日は少し君の時間をいただきたいんだ」
「……と、おっしゃいますと?」
「──これを」
そう言って差し出されたのは、分厚い紙の束だった。表紙には“魔法相性の見直しについて”と題されている。
──あ、これ、前回で見たことある!
「論文……!」
「ああ、君が言っていたことを参考にして、魔法相性の見直しの研究をしていたんだ」
「まだ研究途中だけどね」とロベリア様は微笑む。ページを1枚、1枚と捲る度に見覚えのある文章が目に飛び込んでくる。
──懐かしい。
そんな思いが胸の底にじんわりと広がる。
前世で幾度も繰り返し読み返した論文と一言一句違わないそれが今ここにあると思うと、不思議な気持ちになった。
──とまあそれは置いておいて、12歳の子供に過ぎない私に何故これを?
「ここの論文発表者の欄に、君の名前を載せたい」
「……えっ?」
あまりの出来事に思考が停止する。
え、普通に何で?
「君はこの研究の原案の発案者であり、サンダードラゴン討伐の際にその実験を成功させてみせた功労者でもあるからね。君の名前がここに記されるのは至極当然なことだよ?」
「そ、そんな! 辞退させていただきますわ!」
「それは困るなぁ」
そもそもこの研究はロベリア様主動でやっていたものだし! 私はパクったと申しますか!?
──とは流石に言えないので何とか理由を捻り出そうとする。
「私はただ子供の絵空事を呟いただけですし!」
「それが形になったんだよ」
「実験と言っても魔法を打ったのもドラゴンを倒したのも私ではありませんし!」
「魔法の研究者なんてそんなものだよ」
ぐ、ぐぅ……! ああ言えばこう言う……!
「──あ、あまり目立ちたくありませんもの」
「じゃあ、小さく名前を載せておこうね」
これでどうだ!? と意気込んでみたものの、あえなく撃沈した。
うなだれている間にさりげなくロベリア様は書類に私の名前を記載していた。やっぱり無理だったよ……。
「──あ、終わりました?」
「ああ、妹君にもしっかり承諾を貰ったよ!」
ニュアンスが違うと思いますけれどねぇ……?
恨みを込めた視線を向けてみたが、そんなものでロベリア様に太刀打ちすることなど出来なかった。
「よしよし、じゃあセレナ。そろそろいい時間だし行くか!」
「はい、お兄様」
やっぱり王宮にいてもろくなことがない。
お兄様が何を画策しているのかはさっぱりわからないけれど、さっさと行ってさっさと終わらせよう!




