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第33話 労り?

「セレナ、入るぞ──おうおう、元気そうで何より」




「本気でそう見えると仰るなら一度お医者様か回復魔導師に見て貰うことを強くおすすめいたしますわ、お兄様」




「相変わらずだな、お前は」





窓の外は夜の帳が落ち、窓枠の外には銀砂を撒いたような満天の星空が広がっている。

窓を開け放つと涼やかな風と共に、秋の虫の音がどこからともなく舞い込んでくる。




夕食後、げっそりとテーブルに突っ伏していた私の自室の戸を叩いたのは、随分と上機嫌な様子のお兄様だった。





「お茶はいかがなさいますか?」




「いや、大丈夫だよノーラ。お構いなく」





戸棚に入れてあった最近お気に入りの紅茶の缶をいくつか取り出してノーラが尋ねるが、お兄様はそれを断りつつ向かい側のソファーに腰掛けた。





「随分とお疲れの様子だな。……ま、あれだけ引っ張り回されれば当然か」





王都に戻ってからの私は、王宮の騎士団本部に呼び出され、数時間に及ぶ事情聴取に付き合わされる羽目になった。



実際私が聴取されていたのはそうたいした時間ではなかったけれど、誘拐犯の主犯格やネロの聴取に相違がないか確認するように言われていたのだ。


自分が詰め寄られているわけではないのに、これほど精神がすり減るなんて……。

確かに私は、誰かが怒られていると自分も怒られているような気分になるタイプだけど……!



事情聴取後はネロの減刑の嘆願書を提出した。



王宮に呼び出される前に先手を打って用意していて、ネロが奴隷で誘拐の協力に対する拒否権がなかったこと、彼がまだヴィレーリアおよびゾルドの成人年齢に達していないこと、また私の救出に尽力してくれたことをつらつらと書き連ねた物だ。


その影響か、無事ネロは監視付きの数週間の執行猶予──ほぼ無罪放免に近い形の刑が決まった。



正直王宮がここまで譲歩してくれるとは思っていなかったのでちょっぴり驚いている。



いやぁ、ちゃんと用意しておいて良かった……!





「──それでお兄様、今日はどうなさったの?」




「激務の妹を励ましに来た優しいお兄様だけでは足りない、と?」





私がそう問いかけると、お兄様は芝居がかった声色でそう質問を投げ返してきた。



18年ほどこのセベク・アーシェンハイドという男の妹をやっている私にはよくわかる。

こういうときのお兄様は物凄く面倒臭いのだ。適当に乗っておいて早めに切り上げるに限る。





「そうですわね。私はほんの少しだけわがままな侯爵令嬢ですから、心優しいお兄様だけでは満足できませんの」





私のその答えを聞くと、お兄様は満足そうな声色で言った。





「そうかそうか──なら明日、王宮の研究棟まで来ると良い。良いものを見せてあげよう。お前もきっと元気になるぞ」





どこか思わせぶりに人差し指を立てながら己の唇に当てお兄様は妖艶に微笑んだ。




──王宮の研究棟? 何故?




私の疑問はついぞ解決しないまま、お兄様は「あと、サンドイッチを作ってこいよ!」と呟きながらひらひらと手を振って私の部屋を後にした。

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