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第26話 遊覧船

「セレナ! こっちよ!」




「申し訳ございませんわ、少し道が混んでいまして……」




「大丈夫ですよ、セレナ様。まだ約束の時間よりも前です!」





そこには既に4人の人影があった。

右から順にシェリー様、ルイーズ、ソフィア、そしてメープル伯爵令嬢。



ルイーズから貰った招待状は、王都付近の避暑地で遊覧船に乗ろうよ! みたいなお話だった。


この避暑地──王族直轄地区ヴェリタリアは、毎年貴族達が酷暑をしのぐために訪れる有名な避暑地でもある。



今年は冷夏でもないが酷暑と言うほどでもなくて特に訪れる予定はなかったのだが、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。


──ということで今日はヴェリタリアにやってきたのだった。





「ご機嫌よう、セレナ様」




「ご機嫌麗しゅう、メープル伯爵令嬢。久しぶりね、お会いできて嬉しいわ」





メープル伯爵令嬢とは前回今回と続き、大した接点もなかった。


それはこの場にいるシェリー様やソフィアも同じで、正直ルイーズがこうやって誘えたのが驚きなくらいなのだ。ナイスすぎるルイーズ。


持つべきものはやっぱり顔の広い親友だね!




接点がなくて気まずいのはお互い様のようで、メープル伯爵令嬢も萎縮した様子だった。


まあソフィアは別として、有力貴族侯爵令嬢が二人と公爵令嬢に囲まれているわけだし……。





「メープル伯爵令嬢は遊覧船はお好きなの?」




「どうぞアルナとお呼び下さいセレナ様。……はい、我が一族は水系魔法使いが多いので」





私が雷雨の日にテンションが上がるように、お兄様が台風の中身一つで外に繰り出すように、魔法使いはどうにも自分の属性に関連する事象を好むようだ。

ちなみにエビデンスのない、ただの傾向の話である。

私もお兄様のあの奇行には流石にちょっと引くわ。





「そうなの。私、遊覧船に乗るのは久しぶりだから色々教えていただけると嬉しいわ」





──こうして楽しい楽しい遊覧船ツアーが始まった。





***





アストラル家の手配した遊覧船に乗り込むと、船はゆっくりとロード川を遡上し始めた。


貴族達の避暑地を離れてゆっくりと上っていくうちに、景色は深い森林へと姿を変えていく。




そう暫くしない内に、船頭をしていた遊覧船のスタッフが、のんびりとした口調で語り始めた。




「ヴィレーリア王国を横断するこのロード川は、国内一の水深を誇り、また川幅はトップクラス。上流にはドレイク湖が存在し、川周辺の地域に豊かな実りをもたらします。捕獲可能な川魚はたっぷりと肥えており、この時期になりますと産卵のために遡上してきた魚たちの姿を見ることが出来るのです」




そのまま「右手をご覧下さい」という声に従うと、水面の奥に銀に煌めく魚影がいくつも見えた。




「あら、綺麗ね」



「なんのお魚でしょうか……? 美味しそうですねぇ」




ルイーズはその姿に感嘆し、ソフィアはそう呟きながら口元をハンカチで押さえる。



──逃げて、お魚さん、今すぐ逃げて……!

意外と武闘派のソフィア・レスカーティアに捕まるぞ……!




「あら、素敵な日傘ねアルナ様。どこの商会の物かしら?」



「ありがとうございます、シェリー様。これは──」




最初は萎縮して借りてきた猫のようにガッチガチだったアルナ様も、シェリー様のさりげないフォローで徐々に馴染んできている。



──うん、よしよし。これは良い流れだ……!

アルナ様は現王太子婚約者。

もめ事を避けたい私にとって、アルナ様の心証を良くしておくに越したことはない。




「そういえばご存じですか? このロード川には水龍がいるそうなんですよ」



「……? 魔物、ですか?」




ソフィアの問いに、船頭は曖昧な笑顔を浮かべた。




「魔物なんだか土地神なんだかは分からないんですけれどね、ヴェリタリアに生まれた人間なら一度は聞いたことのある伝承なんですよ」



「そういえば、ドレイク湖にもそんな伝承があると聞きましたわ」



「ドレイク湖とロード川は繋がっていますから、もしかすれば同一人物──いや、同一龍かもしれないですね」




サンダードラゴンが美味しいのなら、水龍……ウォータードラゴン? も美味しいのだろうか。

うーん、でも火山地帯に生息するファイアードラゴンの肉は辛いし炭みたいで美味しくないと噂だから、ウォータードラゴンも美味しくないのか?



──そんな的外れな事をぼんやりと考えていたとき、不意に、流れ淀まぬ美しい水面が奇妙に蠢いた。




「……?」




目の錯覚かな?

ごしごしと目を擦ってもう一度見つめると、既にごく普通の水面に戻っている。




「あら、セレナ? どうかして?」




ルイーズが不思議そうに首を傾げる。




「あ、ああ、大丈夫ですわ。きっと気のせいです──」




言葉を遮ったのは一体“何”だったのか。



異常なまでに水面が盛り上がり、まるで手のように5つに分かれる。

白いしぶきでよく見えないが、奇妙なその波の内側に黒い核のような物が見えた。



──なんだこれ!? 見たこともないけど普通に気持ち悪い!





それはやがてゆったりとした動きである人物へと近づいていく。




「……ひっ!? なんですの!? なんなんですのっ!?」



「(……狙いはアルナ様か!)」




思うよりも先に、体が動いた。


とんっとその背中を押せばアルナ様の小柄な体は訳のわからないアレの手中から逃れる──まあ、代わりに私がその圏内に入ったわけだが。



ソレは私の体を包み込むと湖底深く水底まで私を引きずり込んだ。



遊覧船からは誰かの叫び声が聞こえるが、たぶん大丈夫だろう。

何も無謀に飛び込んだわけじゃない。




この手は水、しかも川に流れる不純物の入り交じった物──ならば、雷魔法が効くはず! 水の怪物さんも、こればっかりは相手が悪かったね!




既に呑み込まれてしまったので詠唱は出来ないが、無詠唱でも問題ないと思う。




そう踏んで電気を外に出したはずだったが──




「(あれ? 効いてない……?)」




そう気がつけど、時既に遅し。

私の体は深い闇の底へと沈んでいった。

登場人物達の色彩の件について、たくさんの貴重なご意見をありがとうございました。


ご意見や私の執筆状況などを考慮した結果、キャラクター達の色彩については作中でじわじわ記載していく方向で進めたいと思います。

そのためしばらくはキャラクター達の色彩が記載される場面が多くなるかもしれません。ご了承下さい。


たくさんのご意見をありがとうございました……!




それと、今話は記念すべき第50話でした。

ここまで続けられたのはひとえに読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!

これからまだまだ先は長いですが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。

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