第25話 知らせ
お母様と鍛錬を始めて二ヶ月の月日が過ぎた。
お母様の指導はスパルタな上に初心者向けではないので毎日死にかけてる──が、着実に実力はついてきている……のか?
もう何が何だか分からないけれど、やらないよりはマシかもしれない。
「──それで、結局セレナは附属に行くことにしたの?」
「──いいえ、ルイーズ。まだ決めてません……が、視野には入れてますわ」
早起きして昼過ぎまでお母様と共に鍛錬をしていると、どこでその話を聞きつけたのかシェリー様やソフィアそしてルイーズが入れ替わり立ち替わり屋敷にやってくるようになった。
現に今日もルイーズが貴族街でスイーツを買って朝から我が家に入り浸っている。
「でもまあ、素人目だけれど結構様になってきてるわよ。上手いわけじゃないけれど。この短期間でよくそこまで来たわよね」
──まあちょっとだけズルしてるんで! という言葉を私は飲み込んだ。
一般的によく使われる《身体強化》魔法だが、実はこの魔法を使用しながら鍛錬をすることで筋力や技術力の向上が図れるのだ。
この研究結果が発表されるのは今から4年後の話なので、ちょっぴりズルしているわけだ。
これぐらいは許して欲しい、ごめんね研究員さん!
「婚約者殿にはもう話したの?」
「……まだですわ」
……というかそもそもグレン様が帰ってきていないから話せていない、が正解だ。
グレン様は第二騎士団の副団長。
お忙しい方だし、邪魔するわけにはいかないよね。
「揉める前に話しておいた方が良いわよ?」
「それはそうね……」
でもまあ最悪附属じゃなくても、学院の騎士科でもいいんだよな、正直。
学院には普通科と騎士科があり、同じ学校ではあるのだがその2つの科には大した接点がない。
王太子とルーナを避けるためなら別に附属にこだわる必要はないのだ。
「でもまあ、グレン様は特に反対とかはしないと思いますわ」
騎士団に所属するというなら若干微妙なラインだけれど、附属に通うくらいなら許容範囲なんじゃないだろうか。
騎士団に所属するとなると相応の危険が伴うが、附属に通うこと自体は別に死ぬわけじゃないし。
……死ぬほど辛いって噂だけど。
「ふーん、まあ何かあったらフォローくらいはしてあげるわ。それよりも、今日はもっと良いことを伝えに来たのよ!」
ルイーズはそう言いながら、バスケットから1枚の便箋を取りだした。
手渡されたそれはどうやら招待状のようで、アストラル家の家紋が赤い蜜蠟に刻されている。
「避暑地で遊覧船ツアーなんていかがかしら? 私と貴方と、シェリー様やソフィア……メープル伯爵令嬢も交えて、ね?」
「あなた確か、メープル伯爵令嬢と話したいみたいなこと言ってたじゃない?」とルイーズは茶目っ気たっぷりにウインクした。




