第22話 舞踏会
「グレン様!」
「──セレナ嬢、お迎えに上がりました」
お兄様と暫くお話しして、エントランスホールへと移動すると既にそこにはグレン様の姿があった。
宮廷魔導師が制服での参加が認められているように、騎士団の団員もまた制服での参加が認められている。
騎士団の制服は基本は黒で、第一騎士団、第二騎士団──といったそれぞれの小隊の団長達だけが白の制服を纏うことが許されている。
黒でも白でもデザインは一緒だが一目見て分かるように、ということらしい。
ちなみに、腕章のラインの色でも分かる。
臙脂地の腕章に黒のラインが入っていれば一般団員、銀のラインが入っていれば各小隊の副団長、金のラインが入っていれば各小隊の団長。
グレン様は第二騎士団の副団長であらせられるので、制服は黒かつ腕章には銀のラインが入っている。
騎士団の制服は、平民は勿論、貴族令嬢達の憧れである。
王子という名称がブランドであるように、騎士という役職にもブランドがあるらしい。
──え? そうか? そこまでじゃない?
などとほざいていた前回の私に物申したい。
──やっぱり、制服は素敵だ! と。
「今夜一晩、貴方をエスコートする栄誉をお与えいただけませんか?」
「よろこんで!」
***
舞踏会の会場はレスカーティア伯爵家の所有する王都の邸宅。
貴族の舞踏会の開き方は、自分の家で開くパターンとどこか会場を借りて開くパターンの2つがある。
前者は説明不要だと思う。後者は貴族相手に会場を貸したり、料理やそのセッティングまでこなしてくれる業者があり、そこに依頼するといった形だ。
有力貴族は前者のパターン、その他貴族が後者というイメージがある。
勿論有力貴族が後者を選ぶこともあるし、下級貴族が自分の邸宅内でプチ舞踏会をすることだってある。なのであくまでも体感だ。
ソフィアはいつもつるんでいる四人──シェリー様、ルイーズ、私の中でも一番爵位が低いが、レスカーティア伯爵家は国内有力貴族。
会場の設備、料理──そして招待客の人数は圧巻だった。
「セレナ様! 本日は我が舞踏会へようこそ、お待ち申し上げておりました」
「ソフィア、こちらこそ本日はお招きいただきありがとうございます」
数多の招待客の合間を縫って現れたのは、今回の舞踏会のホストの娘ソフィア・レスカーティアだった。
ドレスの裾を掴み、美しいカーテシーを披露した彼女は、その白金の前髪の下から愛らしい笑顔を浮かべた
──ソフィア・レスカーティア。
レスカーティア伯爵家の三女。
ルイーズを介して知り合った良き友人で──同時に、前回の最期の瞬間まで私の味方をしてくれていた戦友でもある。
ルイーズやシェリー様も同様に味方をしてくれてはいたのだが、ソフィアは一際強く私の冤罪を主張していたという話を獄中で聞いた。
そんなソフィアだが、実は彼女は将来の職業として騎士を志望している珍しい令嬢でもある。
そのため、エリシオン学院では騎士科に通っていた。
「──隣の殿方が、グレン・ブライアント様ですね。はじめまして、ソフィア・レスカーティアと申します。本日は我が家の舞踏会にようこそいらっしゃいました」
「こちらこそ、本日はお招きいただきありがとうございます。ソフィア嬢のお話は、セレナ嬢からかねがね」
お互いの挨拶が終わると、ソフィはくるりとこちらを振り向き満面の笑みを浮かべた。
「お二人は開幕ダンスに参加なさいますか?」
舞踏会での最初のダンスは婚約者や伴侶、もしくはエスコートの相手とダンスを踊る。私の場合ならグレン様と踊ることが許されている。
ダンスはそこそこ自信があるし、グレン様のダンスしている姿も見てみたい! ──のだけれども。
「身長差が……」
「……それは難儀ですね」
少し前にグレン様と舞踏会の予行練習をしたときに、それは発覚した。
そう、私とグレン様では身長差がありすぎてまともに踊れないと言うことに!
お兄様と踊ったときには何にも問題はなかったのに!? とも思ったのだが、私は普通に忘れていたのだ──お兄様は男性の中でも比較的小柄な部類に入るということを。
いや、うっかりしてたよね。
王太子とは同い年なので幼少期は大した身長差はなかったし、成人後もさした差ではなかったけれど、今の私は12歳でグレン様は18歳。
精神年齢は一緒でも体格差は覆せなかったよ……。
「それでは、鹿角兎のソテーなどはいかがですか? 先日、両親と共に狩りに行きまして、今日料理人達が腕を振るって調理してくれたのですよ」
代案としてソフィアがそう提案する。
鹿角兎は森に住む鹿のような角を持った兎の魔物だ。草食性で好奇心が強く、民話などの伝承にもよく出てくる。
鶏肉のような食感ではあるが、その肉は臭みもなく淡白で噛み応えのある上品な味をしている。ちなみに平民の間では高級食材として扱われているらしい。
「まあ、それは美味しそうですわね。弓矢ですの? それとも罠?」
「手掴みです!」




