第21話 準備
──ブライアント家訪問から約一月が経過した。その間にピアスも完成し、ソフィアの家の舞踏会に合わせて仕立てていたドレスの準備も万端である。
ピアス、そんなに早く完成したんですか!? と驚いていると、わざわざ家まで届けに来てくれた店主は茶目っ気たっぷりにウインクして「“幻獣の双玉”を拝見しまして、年甲斐もなく創作意欲が高ぶりましてな」と笑っていた。
「お嬢様、髪用のリボンはいかがなさいますか?」
「んー……黒でお願いするわ!」
数ある髪紐の中でも黒地に金のラインの入った大人っぽいデザインをチョイス。
12歳の私が身につけると、出来たてホヤホヤのピアスやドレスと相まってちょっぴり背伸びをしたお嬢さんのように見える。
「どうかしらメル、ノーラ?」
「いつも以上に愛らしいお嬢様にございますわ!」
「お嬢様も大人の仲間入りですね」
「あら、成人まであと3年はあるわよ!」
姿見の前でくるくると回れば、ふわりとスカートが広がる。
前回の12歳の頃なんて、一に妃教育二に妃教育、三四がなくて五に妃教育だったからなぁ……お洒落なんて最低限度しか触れあって来なかった。余裕がなかったといいますか。
ドレスなんて商人に「流行りの物で、私に似合いそうな物をお願いしますわ」って言うだけだったもんね。
注目される分、自分らしさや自分の好みは出せないものなんだよなぁ。
メルをはじめとした若いメイド達ときゃいきゃい騒ぎ合っていると、不意にノック音が賑やかな室内に響いた。
「セベク様です、どうなさいますか?」
「お兄様ね、どうぞお入りになって!」
ノーラの問いかけに私がそう答えると、扉が開き礼服姿のお兄様が現れた。
「セレナ、失礼するよ」
私がソフィアの家──レスカーティア伯爵家の舞踏会に招かれているように、お兄様もまた招待状を貰っていた。
舞踏会にはドレスコードという物が当然存在するが、宮廷魔導師などをはじめとした一部職業の人々は礼服の他に勤務時に着用する制服での参加が認められている。
お兄様で言えば、宮廷魔導師としての制服──ローブ。
お兄様が宮廷魔導師として就職してから私が死に至るまでの6年間、舞踏会などの行事で礼服を着ている姿を見たことがない。
踊りにくくありませんか? と聞いたことがあったけれど、その時はにっこりと笑って「そんな相手がいるように見えるか?」と返された。
お兄様……可哀想に……。
「お兄様、どうです今日の私は?」
「ん? ああ、いいんじゃないか? 可愛い可愛い」
お兄様!! 雑!! わざわざ部屋にやってきた割にはあまりにも対応が雑じゃありませんかね!?
そんなんなんだから18になっても婚約者が居ないんですよ。私なんか、前回今回のいずれのタイミングでも12歳で婚約者がいるからね。
「あーあ、まさかセレナに負けるとはな」
「ピアスですか?」
「はー……もうちょっと、せめてあと数年待ってくれていたら私の方が先だったのにな」
……お言葉ですが、お兄様。6年後でも独り身でしたよ?




