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第19話 夕食会

ブライアント辺境伯邸の晩餐室は、他の部屋と同様に貴族邸特有の特徴を押さえながらも質素堅実な造りとなっていた。


派手すぎず、しかし貴族としての尊厳を発揮出来るちょうどいいバランス。



長方形のダイニングテーブルには見事なレースの刺繍が施された純白のクロスが敷かれており、ガラス製の見事な細工の施された花瓶には花が生けられている。



手前側に辺境伯一家が着席しており、奥側にお父様の姿が見えたので私もそれに倣って着席する。



私が着席してすぐにグレン様の弟君が、そしてその後暫くしてグレン様が着席し、ようやく夕食会が始まった。





我がヴィレーリア王国は山脈や大河で土地が区切られていたり、人種の差などもあるが、食文化や食事のマナーはそう大して変わらない。


まず前菜やスープが出てきて、メイン、デザートと続く。

アレルギーなどがある場合は別だが、基本的にみんな同じ物を食べる。

その辺りは平民と同じなんだとか。




お喋りをしながら夕食をいただくのが一般的な光景で例にも漏れずこの夕食会も賑わいで溢れていたのだが──




「(……あれ?)」




スープに口を付けた瞬間、私は謎の違和感に襲われた。


もちろんスープに毒が──とかそういう話ではなく、何かおかしいという脳の警鐘のようなもの。



え、え? 何だろう、これ……?



訳がわからぬままにもう一度スープを掬うと、その違和感の答えが分かった。




「……あの、皆様。どうかなさいましたか……?」




そう、ブライアント辺境伯一家が、私がご飯を食べる様子を見つめているのだ。


凝視……というほどではないけど、何故かどこを見ても目が合う。

それに、ブライアント辺境伯一家だけではなく、従者やメイドの皆さんも私のことを見ているのだ。



なるほど違和感の正体はこれか……! いやなんでそんなに見つめて……!?



王太子の婚約者として恥をかいてはいけない、とマナーだけは気を遣っていた前回の私のお陰で、今回の私は年の割にはマナーのなった令嬢だろうと自負している。


だからといって、私のスプーンさばきにみんなが見とれているというわけではないだろうし……!



例えば、料理人や辺境伯が客の反応を待っている──というのなら分かる。



まがりなりにも我が家は国内有数の権力を持つ侯爵家。主人や料理人が気を遣うのはままある話。

だけれども辺境伯はおろか従者の皆さん、夫人やグレン様、果ては弟君まで、この場にいるブライアント家の全員が私を見つめているとなると話は別だ。




──え、やっぱり私の華麗なるスプーンさばきに見とれて……?




私のやや困惑した──むしろ若干の恐怖の入り交じった声色に、一同は互いの顔を見つめ合うと、私と相反してほっこりしたような笑顔を浮かべたのだった。




「いえ──気にしないで下さい」




いや、気にするよ!? 普通、そんなに見つめられたら気にするからね!?



隣の席でもりもりと食事をしていたお父様の方を向くと、当のお父様でさえほっこりしたような笑顔を浮かべていた。




──まさか、口元に何か付いて……?




慌ててナプキンで口元を拭うが、何も付いていない。




わ、分からない……何故こんな状況になっているのかが分からない……!




そんなときに救いの手を差し伸べてくれたのはグレン様だった。




「セレナ嬢は、給餌行動という言葉をご存じですか?」



「え? 給餌行動は動物にとっての求愛行動の一つ、と耳にしたことがございますけれど……」



「はい。我々獣人は名称の通り、獣の血を引いていますから本能的に好いた相手に──最近は親兄弟や友人に対してそういった行動に出てしまう……らしいです。今、指摘されて初めて気がついたので、憶測の範囲ですが」




む、無意識だったんだ……?

つまり獣人の皆さんは私にもりもりとご飯を食べて欲しい、と。



よく分からないが、悪意が混じったわけではないのは確かだ。


むしろ、グレン様の憶測の通りなら、ブライアント辺境伯邸の皆さんに家族として歓迎されているということでもある。


ならばその期待に応えなくては……!




「……おかわりをいただいても?」



「はい、ただ今!」




元来魔法使いは大食いなのだ。

少ない量でも死んだりはしないが、食べろと言われればいくらでも食べる。


一説によると魔力の充填率がどうだか、変換率がどうとか言っていたが、要は大食いのスペシャリストなのだ。




「美味しいですわ。シェフにありがとうとお伝えくださいませ」




よく分からないしこれ以上つっこむ気もないが──今の私に課せられた使命は美味しく夕食を食べることだということは分かる!

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