第15話 サンダードラゴン肉
──その夜は、朝の曇天がまるで嘘のように澄み切った、快晴の星空が広がっていた。
その満天の星空の元、王城内では討伐されたサンダードラゴンの肉を使った料理が宮廷料理人達の手によって振る舞われていた。
「はい、本日の功労者二人へ!」
「ありがとうございます、ロベリア様」
ロベリア様から手渡されたのは、サンダードラゴン肉の串焼き。
塩と胡椒を振り、少し焦げ付くくらいまで炙ったお陰で、おなかが空くような香ばしい香りが辺りに漂っている。
「熱いのでお気をつけ下さい」
「はい」
グレン様に言われたとおり、ふぅふぅと冷ましてから大きく一口いただく。
口に入れた瞬間、口内いっぱいに肉汁が広がり、肉本体はとろりと溶ける。噛み締める度に肉汁が染み出るのもそうだが、パチパチとした食感も魅力の1つだ。
「んん~!」
やっぱり、新鮮な食べ物って良いな……!
前回お兄様がお肉を貰ってきたときは、野菜のおろしソースと和えたステーキで頂いたけれど、串焼きもそれに引けを取らないくらいに美味しい。
「美味しいですね、グレン様」
「はい。サンダードラゴンは初めて食べましたが、聞きしに勝る美味しさです」
平然とした表情のグレン様だが、よくよく注目していただきたい。
このぴんっと立った耳と、今までに見たことのないくらい振っている尻尾の姿を……!
普通に食べるのも美味しいけれど、やっぱり働いた後に食べる美味しい物は段違いですよね。
「おーい、グレン、アーシェンハイド嬢! 食ってるか~!」
「ジオ、走るなよ。危ないし、脇腹が痛くなるから」
二人でもぐもぐと咀嚼していると、不意に遠くから聞き覚えのある声が響いた。
声のした方向を振り向けば、両手に串焼きを持って腕を振るジオ様と、走り出したジオ様をいさめるアレン様の姿があった。
ジオ様の方は遠目に見ても若干顔が赤いような気がするから、もしかしたら若干お酒が回り始めているのかもしれない。
「申し訳ない、二人とも。ジオはちょっと酒に弱くて……」
「アーシェンハイド嬢は、もうこの串焼き食べました~? 旨かったんで1本差し上げますね」
そうして差し出されたのは私達が食べた塩と胡椒の串焼きではなく、タレがたっぷり絡められた物だった。
焦がされたタレの香りが食欲をそそる。
一応、アレン様に目配せすると、こくんと頷かれたので一口いただく。
「…ん! これはまた美味しいです。グレン様も一口どうですか?」
「それじゃあ、一口だけ」
じゃあ取り分け皿を取りに行かねば、と立ち上がろうとした瞬間、右手側にグレン様の顔が近づいたのが分かった。
そしてそのまま串焼きを一口ぱくりと食べられてしまう。
「……? どうかしましたか」
「あ、いえ、何でもございませんわ」
……何もないわけないけど!!
心の内に秘めた叫びを必死に抑えて、一度上げかけた腰を下ろす。
「(こ、これって間接キス……よね!?)」
まさにちまたで噂の“間接キス”のシチュエーションそのままだ。
……もしかして、騎士様方の間では割とあるのかしら!? それとも私が世間知らずなだけ!?
驚きすぎて、普通に「あ、まつげ長いなぁ~」とか的外れなことを考えていた自分が恥ずかしすぎる。
「そういやグレン。さっき所長が呼んでたぞ」
「何でしょうか……? それじゃあ私は一度失礼します」
「あ、はい。行ってらっしゃいませ」
──し、心臓に悪いわ……!