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第13話 姫抱き

森の中は一切人の手が入れられておらず、荘厳な自然が広がっていた。

大人三人が手を繋いで輪を作っても足りないような太い幹の大木、地面を隆起しながら張り巡らされた荒々しい木の根。


そのいかにも走りにくいであろう地面をブライアント様は物ともせずに颯爽と駆け抜けていく。




私も別に運動神経がないわけじゃないし、むしろ若干自信があるタイプだったんだけれど、やっぱり獣人のブライアント様は段違いだわ……!

ブライアント様と、私含む魔導師の皆さんの集団はみるみる引き離されていく。




箒! ここに箒さえあれば……!




魔法具の代名詞箒は魔力を注ぐことによって浮遊する優れもので、その歴史は長く、始まりの魔法具とも言われている。

……いや、道具に頼りきりなのは良くないか。どんな職業であれ体力は基本だからな。



と言うことで深窓の令嬢枠なはずの私と、ガチガチのインドア派の魔導師の皆さんが必死に走る。

すると、ごま粒のように小さくなっていったはずのブライアント様の姿がみるみる大きくなっていった。



私達の足が奇跡的に獣人の速さに追いついた──わけではなく、ブライアント様がこちらに走って来ているのだ。



ブライアント様は無言でこちらまで駆け寄って来たかと思うと、「失礼します」とだけ呟いて私を横抱きにして抱き上げた。




背後からは魔導師の皆さんの「グレン、俺達も連れてけ!」「美少女を独り占めなんてずるいぞ!」という分かるようで分からない叫びが響くが、ブライアント様はそれを軽く笑って一蹴する。




「──何を怠けたことを。それだけ叫ぶ元気があるんだったら走れるはずです。自力で来て下さい」




なるほど、これが大人の余裕ってやつなのね……。

私が赤面するのをよそに、魔導師の皆さんとの距離はあっと言う間に離れていく。

良かった、これで顔が赤くなったのには気が付かれなさそう……?




「ごめんなさい、私の足が遅いばかりに……」



「いえ、そういうことでは無く……セベクと約束したとおり、怪我をされてはいけませんし──これは私の特権ですので」



「でも……」




うっ……流石受け流しも完璧だわ……!

それでもやっぱり申し訳ないものは申し訳ない。

そんな私の意を汲んでか、暫くしてブライアント様が呟く。




「それでは、私をファーストネームで呼んでいただく、というのはいかがでしょうか?」



「お名前を?」



「ええ、今私が一番して欲しいことをしていただく──これで等価交換になりませんか?」




「それとも貰いすぎでしょうか?」とブライアント様が眉を八の字にするので、私はぶんぶんと音が出そうなくらいに首を横に振った。




「グレン様──とお呼びすれば良いのですよね……?」




おずおずと名前を呼ぶと、途端無表情に近かったブライアント様──グレン様の顔に何とも言えない優しい笑みが灯った。

警戒のためにぴんっと立っていた耳が、ぺちゃんと柔らかく潰れる。




「以後、そう呼んでいただけると嬉しいです。求婚して下さってる方に……好いた方に、ファミリーネームで呼ばれるのは些か心が痛みまして」



「す、好いた方!?」




驚きすぎてむせる私に、大丈夫ですか? と大して変わった様子もなく尋ねるグレン様。


いや、そりゃ驚きますよ!

『求婚させていただきたい』なんて言われていたけれど、どストレートに言われたのは前回今回含めて初めてだからね……!




「──あれだけ情熱的に求婚され、国内1位2位を争う好物件の王太子殿下との婚約も目の前で蹴られて、気にならない男などいませんよ」




な、なるほど……。

私にとって王太子との婚約は死んでも嫌だ! っていうお話だったけれど、普通はこれ以上ない幸運だもんね。

王族との婚姻を断る貴族なんてそうそういないし。




「(これは……)」




ますます、手近にいたグレン様に求婚しました! なんて言えない雰囲気だぞ……?

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