第123話 晩餐
お久しぶりです。執筆する余裕が戻ってきたので、少しずつ更新していけたら嬉しいです。
更新が止まっている間もたくさんの方に読んでいただいたり、感想をいただいたり……本当に嬉しかったです、ありがとうございます!
また、リハビリのために執筆していた新作をこの度公開しましたので、もしよければそちらもご覧いただけると幸いです。
『お飾り皇帝にはお似合いの仕事』
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時は流れて、ついにこの時が来てしまった。
国王の晩餐。いざ尋常に勝負、である。
結局、この日のために新しくドレスを誂え持参したが、結局そのドレスはエヴリン姫に取り上げられてしまった。曰く「折角来たのだから存分に楽しむべし、まずは衣服から文化交流!」とのこと。
あまり詳しくもない私が真似をしたら失礼ではないかと思っていたが、なるほどそういう考え方もあるのかと感服した。
そんな悩みを打ち明けるとエヴリン姫はニンマリと笑って、代わりに獣人王国風の衣装を数着手渡してくれた。「お土産にするとよい!」とのことである。つくづく懐の深い姫である。
ヴィレーリアにはない型のドレスは厚手のように見えてその実、実に風通しがいい。強い日差しと砂嵐から身を守るための厚さなのだとエヴリン姫は教えてくれた。
異国情緒溢れる衣服に身を包むと、しゃんと背が伸びるような心地がして、少しくすぐったくもある。
「よし、それじゃあ行くぞセレナ」
「はいお兄様。頑張りましょうね、主に胃袋的な意味で」
グレン様とはここで一時お別れ。招かれたのは私達兄妹だけのためだ。
それにグレン様のご実家は獣人王国の王家とは少々確執がある。目と目があったら即バトル――なんてほどではないにせよ、触らぬ神に祟りなしであるということだ。
王の御わす宮殿はエヴリン姫の離宮とはまた違った系統の、されど細部まで趣向を凝らせた造りをしている。
大理石とはまた異なる、白くスベスベとした石畳の床。
見慣れた三角屋根とはまた違う丸みを帯びた屋根。
庭園に至っては植物園が広がるのではなく、その代わりに噴水の海が広がっていた。
獣人王国は古くから渇水と氾濫に悩まされてきた土地柄でもある。水の厄災に縁があるこの土地では、水を制御する噴水技術こそが権力の象徴なのだ。
海のほとりに控えめに植えられていた白い花が、風に誘われその身を水面に浮かべる。暗い水面の上に咲く白い小花は、何処か星空を思わせた。
回廊を、侍従の案内に従い進む。その途中で、私は噴水の海の上に佇む人影を見た。
「(あれは……ガイア・マーコール……?)」
彼とて王家の一員であるのだから、城にいることは何らおかしなことではない。私が違和感を覚えたのは、その様子にであった。
水面を散らして進む王子ガイアと老齢の男。何やら会話を交わしているようだったが、その様子からは昨日のような明るさは見られない。むしろ気怠げというか、ダウナーというか。
昨日の彼を太陽と呼ぶのであれば、今の彼は月のような静けさを思わせた。同じ顔立ちをしているのに、まるで別人のようだと思う。
「(……ううん。むしろあれなら、『暴君ガイア・マーコール』のイメージに合う)」
家の中と外では性格が違うタイプなのか、それともエヴリン姫との関係が肝なのか。はたまた傍らの老齢の男が鍵になるのか――?
そんな思考は回廊を一歩進む事に溶けて消えてしまう。
私はその思考に諦めをつけて前を向き直った。
***
「――よく来てくれた。ヴィレーリアの娘、我らが友よ。これまでのそなた功績に感謝と敬意を。貴国には劣るが、心の限りの食事を用意した。どうか礼儀作法を気にせず心ゆくまで楽しんでくれると嬉しい」
「とんでもございません。ありがとうございます、国王陛下」
国王の言葉を皮切りに、次々と料理が並べられていく。一つ一つが宝石のように鮮やかな輝きを誇る上に、それが広大なテーブルの上にいくつも乗せられていく。それはまるで花が咲き誇るようだった。
ヴィレーリアにおいては、料理とは一品一品運ばれてくるものだ。スープを食べきったなら次は魚料理、それを食べ終わったなら肉料理……といった具合に。
なので、このように全ての料理がテーブルの上に一度に並べられるのは初めての経験だった。
「(……これが全て、だよね?)」
まさか全て食べきったら次の料理が出てくるのではないだろうなと、不覚にもヒヤヒヤしてしまう私だった。
一口大にきり分け、ぱくりと料理を口に運ぶ。
その瞬間、口いっぱいに華やかなスパイスの香りが広がった。パリッと焼かれた肉料理は、皮を噛み切ると甘辛いタレの旨味の後にじゅわりと脂の甘さが広がる。
極上の味に思わず目を細めると、焼けるような視線の束を感じた。見れば、国王から給仕をする使用人まで、多くの獣人がこちらを見つめている。
「(やっぱり、見るんだ……)」
グレン様のお屋敷で、一家に見守られ食事したあの日のことを思い出し思わず口元も綻んだ。
その間もお兄様は視線をものともせず黙々と食べ進めている。その姿、まるで万物を飲み込む渦潮の如し。これには流石と言わざるを得ない。
私もそれに倣って、また食事を再開した。実は、そうであるだろうと思い予めお腹をペコペコにさせて挑んだのである。並大抵の量では今日の私達を打ち負かすことはできない……!
「ところで、ヴィレーリアの娘よ。エヴリンと既に会ったという話を聞いたが……」
国王の咳払いに、果物へ伸ばした手を引っ込める。
エヴリンから「父に嫌われている」という話は聞いていたが、まさか当の本人から尋ねられるとは思っていなかった。
……冷遇、というよりは単に馬が合わないという意味での不仲なのだろうか、と思考を巡らせつつ問いかけに答える。
「はい。まだ出会って間もなくはありますが、とても良くしていただいております――」
そうして私はエヴリン姫とのこれまでを話し始める。
驚くべきことは、話が進むにつれ国王の顔に悲しげな色が浮かび始めたという点だ。
耳にしたくもない話であるならば途中で切り上げるか、感情の起伏があったとしても、それはせいぜい怒るか程度のものだろう。……だが、その顔は悲痛に満ちていたのだ。
それは、とても不仲な娘に苛立ちを感じる人間のものとは思えない。むしろ、わが娘を思う父親、そんな風に見えて仕方がない。
「(……やっぱり、何か込み入った事情があるのだろうか)」
その様子はどうにも、単に何かいがみ合って嫌い合っているだとか、相手が気に入らないといった類いの不仲とは結びつかないのだ。
エヴリン姫がこちらに助けを求めるくらいなのだから、彼女の拒絶が発端という訳では無いだろう。
しかし、情報があまりにも無いのが現状。不用意な推察をするのは悪手だ、と思考に区切りをつけて、情報を探るべく話題を広げる。
「……そうだ。昨日はエヴリン姫だけではなく、ガイア様にもお力添えをいただいたのです」
「ガイアも? まあ! 居ないと思ったら、やっぱりまたあの子はふらふらと外を歩いていたのですね」
私の言葉に、今度は王妃が反応する。
その口ぶりからすると彼の放浪癖は一度や二度のものではないらしい。思い返せばエヴリン姫もそのようなことを言っていたなとぼんやり思う。
「ふふ。先にも庭園でガイア様をお見かけしました」
お声がけすればよかった、と続ける。無論それは完全無欠の建前である。あんな恐ろしい暴君の卵に近寄りたいわけがない、ノーサンキューである。……ただ、様子の違いだけは気がかりだったけど。
しかしその瞬間、不意に空気が強張ったのを直感した。
見れば、国王と王妃、両名の顔には驚愕が浮かんでいる。それはまるで、幽霊でも見たような仕草で。
「……それは、見間違いではないでしょうか」
「いえ、でも……」
思わずお兄様と顔を見合わせる。お兄様もまた同じようにこちらの顔を見た。
確かに2人で、この目で見たのにそんな事があるだろうか。確かに外には夜の帳が下りていて、決して明るくはなかったがそれでも見間違えるようなことはないはずだ。
「ヴィレーリアの客人よ。ガイアは昨日の失踪の埋め合わせとして、今朝所領への視察に発ったばかりなのだ。だからやはり、誰かと見間違えたのではないだろうか?」
昨日の今日の話だ。それにあれほど立派なツノを見間違えるわけがない。
では、あの人影は何だったと言うのだろうか――?
新作:『お飾り皇帝にはお似合いの仕事』
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